1/1

36人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

「……この悪魔」  アンナが悔しそうに唇を噛みながら呟いた。  彼女の言葉は抱きついているエミリーにしか聞こえないだろう。 「なんて言ってくれても結構よ」 「どうしてアンタみたいな性悪女の言うことばかりみんな信じるのよ」 「……それは普段からの行いじゃないかしら?」  エミリーはアンナの耳元で囁いた。  アンナの呟きと同じく、エミリーの言葉は彼女にしか聞こえていないだろう。 「アンタが毎日のように馬鹿なことをしてくれたおかげで、ルカス様の私に対する愛情が日々深まっていくのを感じたわ」  エミリーは涙を流したままアンナに冷たく言い放つ。 「あの絶縁状、本当は親友に隠し事をしていた私が皆に責められるはずだったのよね?」  級友に責め立てられたエミリーは怒り狂い、取り巻きを使ってアンナに陰湿ないじめをする。  アンナはいじめに屈せず、その証拠を集めてガーデンパーティーでエミリーに突きつける。  婚約者の前で裏の顔を晒されることになったエミリーは、その場でルカスに婚約破棄を言いつけられてしまう。  アンナはルカスに感謝され、公爵家に貸しを作ることに成功する。  さらに、エミリーに毅然と立ち向かっていく姿を見た王子に惚れられるのだ。 「残念ね。思い描いていた通りにならなくて」 「――っアンタが! アンタさえいなければ私は幸せになれたのにいいいい!」  アンナは勢いよくエミリーを突き飛ばした。  エミリーは地面に倒れ込む。アンナはその上に覆いかぶさって腕を振り下ろしてきた。 「エミリー!」  ルカスが慌ててこちらに駆け寄ってくると、エミリーをかばってくれた。  アンナの爪がルカスの頬をかすめる。 「そんな、傷が……」  ルカスの頬に血が滲む。  エミリーはそっと彼の頬に手を伸ばす。 「ああ、どうしましょう。痕が残ってしまったら」 「こんな小さな傷、なにも問題はない」  エミリーがうろたえていると、ルカスが優しく笑って落ち着かせようとしてくれる。  ルカスは黙っていてもイケメンだが、こういう笑顔もたまらなく好きだ。  アンナは王子ルート狙いだったようだが、エミリーはルカス推しだ。 「なにもかもその女が悪いのに! どうして、どうしてこうなるの⁉︎」  エミリーとルカスが仲睦まじくしていると、アンナが暴れ出した。  周囲にいた者たちが慌てて彼女を取り押さえる。  アンナは身体を拘束されながら絶叫した。 「私が主人公なの! 私がこの物語の主人公なのよおおおお‼」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加