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さっきまで夕日の眩しさに目を眇めて運転していたのに、日が沈むと世界は駆け足で夜へと向かっていく。
頭上の空はまだグレーがかった空色だけど、山際は少しはにかんだような薄紅色に染まっていた。
ことわざに”秋の日は釣瓶落とし”とあるように、すぐに真っ暗になるだろう。
あまり長く修司を引き留めていては申し訳ない。
私はフロントガラスを睨んだまま深く息を吸って、「私も初の死には疑問がある」と言い切った。
「黄菜子、それは……」
「わかってる。自殺した人の遺族は大抵そう言うよね。『あの子は自殺するような子じゃない』って」
仕事柄、遺族に泣きながらそう訴えられたことは何度もある。「よく調べてください」と。
でも、調べれば調べるほど自殺の動機や兆候があったことがわかってきて、結局最後は遺族も納得せざるを得なくなる。
頭では理解しているけど、いざ自分の身内が亡くなると、やっぱり(初は自殺するような子じゃない)と思ってしまう。
修司は長めの前髪をクシャッと掻き上げると、「警察はなんて言ってる?」と尋ねてきた。
「自殺と事故の両面で調べたけど、自殺という結論に至ったって」
「だけど、黄菜子は自殺じゃなくて事故だと考えてるんだな?」
「……違う」
「違う?」
「殺人じゃないかって思ってる」
「殺人って……」
修司は眉をひそめたけど呆れた様子はない。
何をバカなことをと笑われてもおかしくないことを言ったのに、話の続きを促すような眼差しに少しホッとした。
「仕事を休んで、初の死の真相を突き止めるつもり。もしも自殺だとしても、どうしてそこまで初が思い詰めてしまったのか知りたいの」
「……わかった。おまえは身内だから調べるのは辛いだろう。俺で良かったら休みの日に調べてやる」
初の死について調査することを、修司は案外すんなり受け入れてくれたけど、私は「ううん、自分で調べないと気が済まない」と首を横に振った。
人からよく頑固だと言われる。
私が人まかせに出来ない性格なのは、失敗したときに誰かのせいにするのが嫌だから。
猪突猛進だから失敗することも多いけど、やらないで後悔するよりはマシだ。
大好きな初のためなら、すべてを投げうってもいい。
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