プロローグ

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 大切な人は何も言わずに私の前から去っていく。  お母さんは小学3年生だった私を置いて、ある日突然蒸発した。  私の大学卒業間際に急性心不全で倒れたお父さんも、私が病院に駆けつけた時にはもう冷たくなっていた。  でも、まさか妹の(うい)までが、私に一言の相談も無しに飛び降り自殺をするなんて!  告別式から帰ってきたばかりの私は、いまだに信じられなくてマンションの寝室の床にへたり込んだ。  初がうちに泊まりに来たとき、2人でシングルベッドに寝ていて夜中に私が床に転げ落ちたことがあった。  私は自分の寝相の悪さに大笑いしてしまったのに、優しい初は私を心配してオロオロして涙ぐんでいたっけ。  初は本当に優しくて、見た目も中身も天使みたいな子だった。  涙を拭いながら立ち上がり、ベッド脇のサイドテーブルに置いていた細いシルバーのバングルを手に取る。  いつもは右手首に嵌めているけど、今日は告別式なので外していった。  でも、初との最後のお別れだったんだから、嵌めていけば良かった。  バングルを照明にかざして、キラキラと反射する光を見つめる。  その繊細な輝きはまるで初みたいだ。  このバングルは今年就職したばかりの初が、初めての夏のボーナスで私に買ってくれたものだ。  そして……あれが私が初に会った最後となってしまった。  初は美味しそうに焼き肉を頬張りながら、「仕事は大変だけど、だんだん遣り甲斐を感じるようになってきたんだ」と微笑んでいた。  その言葉を真に受けた私が悪かった?   初からのSOSのサインを見逃してしまったのだろうか。  大事な妹なのに、初が何を悩んで自らの命を絶ってしまったのか、私には皆目見当もつかない。  さっき葬儀場で泣き崩れていた初のママも、「なんで?」「どうして?」を繰り返していた。  ――本当に自殺なのかな?  ふと疑問が湧いた時、スマホに見知らぬ番号から電話がかかってきた。 「はい、相良(さがら)ですが」  硬い声で応答した私は、この1本の電話が自分の運命を大きく変えることになるなんて、この時は知る由もなかった。
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