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何だろ? こんな時間に宗教の勧誘でもないだろうに。宅配業者が部屋番号を間違えて押したとか?
首を捻りつつベッドに戻ってスマホを見ると、【チーム初】の通話がまだ3人のアイコンのままだった。
やだ。私ったら【退出】を押すのを忘れてたんだ。でも、千冬も修司も退出してないって、どういうこと?
え? もしかして、あの2人って……。
私が黄菜子に戻ったあの日から、私は千冬とは一切連絡を取り合わずにいたけど、修司は時々千冬に電話していた。
それは牛丸ワカコの暴露記事のせいで連日安納寺の上空に取材ヘリが飛ぶような騒然とした中、千冬がひとりぼっちじゃ不安だろうという修司の心遣いからだったんだけど。
もしかして私が知らない間に、2人の心の距離が縮まっていたのかも。
さすがに付き合い始めていたら、私に報告してくれると思う。
修司とは3年間も付き合ってお互いに結婚を意識していた仲だけど、私の中ではもう元カレというよりも戦友という言葉が一番しっくり来る間柄だ。
真人と愛し合った日々が修司との関係を変えたことは確かで、それは修司も同じだと思う。
だけど、千冬にしてみたら修司の元カノである私が今でも毎日一緒に仕事をする同僚で、親しい友人だというのは少し嫌かもしれない。
うーん。ここは私が一肌脱いで、2人のキューピッドになるべきじゃない?
「2人でなーに話してるのー?」とからかうつもりでスマホを耳に当てた私は、「これは姉御には言えなかったことですけど」という千冬の躊躇いがちな声に言葉を飲み込んだ。
口を閉じたまま耳を澄ます。こんなの盗み聞きじゃん。ダメだよと心の中の天使の黄菜子が注意したけど、無視してスマホを一層強く耳に押し当てた。
「うん、何?」と励ますような修司の言い方がやけに優しくて、やっぱり修司も千冬に惹かれているんじゃないかと思った。
一回りも年下の若い子だから、優しく言っているだけかもしれないけど。
「姉御のお母さんの不倫相手って、もしかして神坂の父親じゃないかなって思って」
「はあ⁉」
思わず声を上げてしまってから慌てて手で口を押さえたけど、時すでに遅し。
「え? 黄菜子?」
「あ、うん。インターホンに出たけど誰もいなかったから。で、千冬。何? その仮説」
「ごめんなさい!」と謝った千冬は今、あのピンクのツインテールを揺らしていることだろう。
私も慌てて「責めてるんじゃないの。どうしてそう思った?」と優しく尋ねた。
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