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失踪直後、うちのお母さんの不倫相手について近所のおばちゃんたちがあれこれ憶測を並べ立てていたけど、結局誰だったのかはわからなかった。
お父さんは「そんなこと知りたくない」と言っていたし、私も相手の男が誰かなんてどうでもいいと思っていた。
お母さんは私を捨てた。それが厳然たる事実で、相手が誰だろうと言い訳にもならない。
お父さん以外の人を好きになったのなら、お父さんと離婚してからその人と結婚すれば良かったのに、どうして駆け落ちのようなことをしたのか不思議ではあった。
近所のおばちゃんたちは「きっと園児の父親とダブル不倫してたのよ」と噂していた。「相手の妻が離婚を拒んだから2人で逃げたんでしょ」と。
当時、父親が失踪した園児はいなかったみたいだけど、例えばもう卒園した子の父親とうちのお母さんが在園時から不倫していて、相手の妻は夫を奪われたことをママ友たちに知られたくなくて単身赴任だと嘘をついていた可能性はある。
そんな推理を得々と話すおばちゃんたちをうんざりした目で見ていた私だったけど、今思えばあれはあながち的外れでもなかったのかもしれない。
「真人の父親がうちのお母さんと昔馴染みだったとしても、不倫相手じゃないでしょ。だって、真人のお父さんは失踪してないんだから」
「どうして姉御のお母さんは男と一緒に逃げたと思われたんですか? 書き置きも何もなかったんですよね? 1人で失踪したかもしれないじゃないですか」
千冬の説は予想外で、私は思わず「え……」と言葉に詰まった。
そういえばどうしてだろう。お母さんが結婚指輪を封筒に入れて、うちの郵便受けに入れていった。ただそれだけで男と逃げたとは限らないのに。
「失踪当日の夕方、うちのお母さんが男の車に乗り込むのを見た人がいたのよ。それで男と逃げたって噂が瞬く間に広まった。だから千冬が言う通り、駆け落ちだとは言い切れないよね。でも、1人で失踪する理由もないよ」
「例えば。……例えばですよ? 姉御のお母さんが神坂の父親と不倫していて、妊娠に気づいたとしたら?」
「は?」
変な声が私の口から漏れたのは、自分の母親が妊娠するなんてこと今まで考えもしなかったからだ。
「なるほど。お互いの家庭は壊さないようにしようと言い合って不倫してたのに、避妊に失敗して妊娠したということはあり得るな。黄菜子のお袋さんは幼稚園の先生をしていたぐらいなんだから子ども好きだろ? 中絶はしたくなくて、せめて相手の家庭は壊さないようにと1人で姿を消したのかもしれない」
修司の話を聞きながら、いやいやいやと首を振っている私がいた。
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