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慌てて手元のメニューを広げると、ダージリンだけでもダージリン・クイーン、ダージリン・ムーンライト、ロイヤル・マスカッテル、ダージリン・ヴィンテージ、レアー・マスカッテル、ファースト・フラッシュ、ダージリン・ゴールド、ファースト・インヴォイスと8種類もある。
その他にアッサムやニルギリやシッキム、アールグレイなどのフレーバード、ハーブ茶にスパイス茶と、メニューに並んだ文字を見ただけでワクワクしてしまう。
「わ! ナッツたっぷりのケーキもある。マサラ・チャイ・アイスだって! 自家製カレーパンも美味しそうよ!」
カレーパン好きの真人の腕に触れそうになって、寸前で止めた。
私が咳払いをして「美味しそうですよ」と言い直すと、真人は口元を手で隠したけど目が笑っているし肩も揺れている。
「すみません。つい興奮しました」
「可愛いね、相変わらず」
「可愛くなんかありません」
「可愛いよ。今日は俺がご馳走するから好きなもの全部頼んで。紅茶もケーキもアイスも。お土産のクッキーも欲しくない?」
「欲しいです……けど、奢ってもらう理由がありませんから」
「理由ならある。俺があんたにご馳走したいから。美味しいものを飲み食いして、満足した笑顔を見たいから」
「そんなの理由になってません。自分で払いますからお気遣いなく」
「ホント頑固だね」
「可愛くないでしょ?」
「頑固なところも可愛い」
何を言っても『可愛い』と返ってくるのがくすぐったくて、私は近くに来た店員に声を掛けて紅茶の違いを教えてもらった。
「じゃあ、ダージリン・ムーンライトをお願いします。それとナッツたっぷりケーキも」
私がメニューを閉じると、真人が「アイスはいいの?」と訊いてきた。
「ケーキを食べた後、お腹と相談して決めます」
「それがいいですね。うちのケーキはボリュームがありますから」
気さくな店員がそう言って去っていくと、真人が「食べ切る自信が無かったら俺とシェアしてもいいんじゃない?」ととんでもないことを言ってきた。
真人と私の今の関係は事故を起こした保険加入者と調査員に過ぎないのに、アイスをシェアするなんてあり得ない。
「そういうことは恋人としてください。食べ物をシェアするのは……恋人とか家族とかごくごく親しい友人とかでしょ?」
真人ってこんなズレたことを言う人だった? 親切心で言っているのだろうけど、ノエルちゃんにしてみたら嫌に決まっている。
恋人がこの場にいたら絶対にやらないことは、そこに彼女がいなくてもやってはいけないことだと思う。
真人は肩を竦めて「だからあんたに言ってる」と軽口を叩いたけど、私に窘められてムッとしたようだ。眉間に皺が寄っていた。
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