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「もちろん警察にも宴にも誰にもそのことは言ってない。けど、俺の恋人がその夜、突然姿を消したことを宴は不法侵入者と関連付けて考えている」
「つまり、キナさんがその不法侵入者で、証拠となった動画を盗んだ犯人だと宴さんは疑っているんですね?」
「宴は怒ってるんだよ。キナが証拠を掴むために俺に近づいたと思ってるから。俺がどれほどキナに夢中になっていたか知っているからこそ、宴は俺を利用したキナを許せないんだ。宴がどんなに調べてもキナの正体はわからなかったし、キナを捜し出すことも出来なかったけどね」
「だから、私に気をつけろと? 宴さんが私をキナさんだと誤解して、私に何か危害を加えるということですか? 宴さんってそんな暴力的な人なんですか?」
私が畳みかけるように尋ねると、一瞬真人の目が泳いだ。
「宴は温厚な男だよ。キナが身長のことで宴に嫌味を言っても、言い返すだけで手を上げたりはしなかっただろ?」
「だから! 私はキナさんではないので知りません」
真人は「あー、そーでしたね」と投げやりな調子で言ってから、「宴は普段は温厚だが、たまにキレることがある。女性に手を上げたことはないだろうが、男に殴りかかるのを見たことがある」と険しい顔をした。
私は「怖いですね」と自分を抱き締める仕草をしてみせたけど、少しわざとらしかったかもしれない。
どうやら真人は宴が過去に女性たちに暴力を振るったり、痴漢行為をしたことを知らないらしい。
当然、父親の誠一郎が息子の不始末を揉み消してきた事実も、まったく知らないのだろう。
でなければ、真人が宴と親友でいるはずがないし、誠一郎の下で働くこともないはずだ。
いくら宴に就職の世話をしてもらった恩があると言っても、真人に良心があればそんなクソ親子とは縁を切っているに違いない。
「神坂さまはどうお考えですか?」
「俺? 俺はキナが俺を利用するために付き合ったとは思ってないよ。姿を消したのには何か訳があるんだろ?」
真人が私の手を握ろうとしたから、咄嗟に手を引いた。
私は真人を愛していたから身体を重ねたけど、初の死の真相を探るために近づいたのは間違いない。
私は真人を利用したと責められても仕方ないことをしたんだ。
「そうではなくて宴さんのことです。彼はあのレイプ事件と関係がないと思いますか?」
咄嗟に質問をすり替えた私はズルい。
でも、今現在の真人が宴とどう関わっているのか知るためには必要な質問だった。
「それは……俺にはわからない。警察が調べて無関係と判断したんならそうなんだろう。でも、パーティーの最中に別荘で行われたことには、宴もある程度の責任を感じるべきだと思う」
真人の口振りからすると、宴はまったく何の責任も感じていないのだろう。怒りに拳が震えた。
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