安納寺の親子

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「愛妻家の一条議員は、亡き妻の忘れ形見である宴さんを溺愛しているとばかり思っていました」  あんなに尻拭いをしてもらっているのに、宴も父親を煙たがっているということだろうか。  首を傾げながらもケーキを平らげた私に真人が「どう? アイスも食べられそう?」と訊いてきたけど、私が答える前に店のドアが勢いよく開いてノエルちゃんが入ってきた。  すぐに私たちを見つけてテーブルに近寄ってきたノエルちゃんは、真人が「ノエル? どうした?」と戸惑ったように問いかけても彼を見もせずに私をキッと睨みつけた。 「相良さん! わざわざ教会まで行ってまーくんや私のことを根掘り葉掘り探って、何がしたいの? やっぱり相良さんは雪奈で、宴さんのことを嵌めようとしてまーくんに近づいたの?」  凄い剣幕で捲し立てられたけど、私はわざとキョトンとした顔で黙ってノエルちゃんを見つめた。  そうか。今日は日曜日だからノエルちゃんは礼拝に行って、シスターから私が教会に来たことを聞いたのか。  でも、どうして私がこの店にいることを知っているんだろう?  他の女性とお茶することを、真人は恋人であるノエルちゃんにちゃんと報告してから来ているということかな。  それは彼氏としては正しい行いだと思うけど、なぜだかモヤモヤしてしまう。  「何言ってるんだよ。俺が『教会に通ってたから自殺なんかしない』って主張したから、相良さんは調べてるだけだろ?」 「じゃあ、どうして私のことまで調べるの? 私が捨てられたときのことをシスターにいろいろ聞いたそうだけど?」 「いえ、別に私からシスターに教えてくれと頼んだわけではありません」 「ふーん。シスターが勝手に私のことをペラペラしゃべったのが悪いってわけ?」 「ノエル! シスターが話し好きなのはおまえもよく知ってるだろ? 相良さんだって無理に聞き出そうとしたんじゃないんだ。誰が悪いわけでもない」  真人にビシッと言われて、ノエルちゃんは口を閉じたけど不満そうな顔のままだった。 「大体、どうして俺たちがここにいるってわかったんだ?」  どうやら真人が教えたわけではないらしい。  さっきはそう思い込んでモヤモヤしたくせに、今度は(恋人に黙って他の女とお茶するなんて、どうなの?)と思ってしまう私。  これから痴話げんかが始まりそうな予感がして、私はすっくと立ち上がった。 「あの! 宴さんがキナさんを良く思っていないというお話はわかりましたので、私はこれで失礼します。神坂さまが私のことをキナさんだと勘違いしたことを、宴さんや一条議員に言わなければ問題ないですよね? 人違いで何かされたらイヤなので。よろしくお願いします」  私が早口で捲し立てると、ノエルちゃんがポカンと口を開けた。
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