安納寺の親子

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 雨で外が暗いのをいいことに私たちはカーテンを閉めて灯りをつけ、まるで深夜のような雰囲気で真っ昼間から缶チューハイを飲み始めた。  おつまみに買ったミックスナッツは大皿に入れて、競うように食べながら話が弾む。  とは言え、臼井ちゃんにも初の死の真相を探るために別人に成り済ましていたことは話せない。  それでも私が休職していた2か月間に出会って恋に落ちた男性と最近再会したということは打ち明けた。  臼井ちゃんは私が彼の前から突然姿を消したと言っても驚かず、ただ黙って頷いていた。 「黄菜子さんが休職中に何をしていたのかは知りませんけど、その恋人に事情を話せなかったんですよね?」 「うん。彼を巻き込みたくなかったし、それは今でも同じなんだ。それに、その事情を話したら彼は罪悪感を抱くと思う」  真人がガーデンパーティーに誘わなければ、初は今も生きていただろう。  それは物事のきっかけに過ぎなくて真人に責任はない。だけど、やっぱり彼は自分を責めるだろうから、初のことで彼を苦しめたくはない。 「そうかもしれないけど、どっちが辛いですかね?」 「え?」 「彼は黄菜子さんと再会して、自分の恋人が突然いなくなったのは記憶喪失でも何でもなくて故意に姿を消したと知ったわけですよね? だとしたら、彼はその理由を知りたいはずです。訳がわからないのが一番辛いと思いますよ?」   ――訳がわからないのが一番辛い。  そうなんだ。初のときもお母さんのときも。  どうして突然死んでしまったのか、どうして急に帰ってこなくなったのか、それがわからないのが辛かった。  人はいつでも答えを求めている。たとえその答えが不本意なものであっても、何もわからないよりはマシだ。少なくとも私はそうだった。 「黄菜子さんだって、本当は言いたいんでしょ? 突然いなくなったけど、あなたへの愛に偽りはなかったって。目の前にいるのにそれを言えないから苦しんでるんでしょ? だったら言っちゃえばいい」 「それは……私の一存では決められないんだよ。結構複雑で」 「私に言えるんだから彼にも言えるはずですよ。言っても構わないギリギリのところまででもいいから、ちゃんと話すべきです。それが別れるときの礼儀じゃないかな?」  別れの礼儀かぁ。確かにそうすべきだったし、今からでも言うべきだ。 「そうしないと黄菜子さんは次の恋に踏み出せないし、相手の男性だって胸にしこりが残ったまま新しい恋人と結婚することになります。それは彼にも彼女にも悪いと思いません?」 「そうだね」  臼井ちゃんの言う通りだ。ただ問題はどうやって切り出すか、どこまで話すかだ。
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