チャンキーヒールの女

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 初のママから「月曜日に初が飛び降り自殺して、明後日告別式なんだけど来られる?」と連絡があったのは、先週の金曜日の終業間際だった。  初のママと私のお父さんが一緒に暮らしていたのは、たった3年間。  2人は籍も入れていなかったから、連れ子同士の初と私は厳密に言えば姉妹でも何でもない。  それでも3年間1つ屋根の下で姉と妹として過ごし、その後も頻繁に連絡を取り合っていたのだ。  それなのに、まるで私の存在なんてケロッと忘れていたかのような初ママの口振りに腹が立ったけど、初にお別れを言いたくて告別式に駆けつけた。  死因が死因だけにてっきり質素な家族葬かと思い込んでいたら、告別式には多くの参列者が訪れていて意外だった。  初のママは私のお父さんと別れた後、バーのお客さんと再婚したと聞いてはいたけど、どうやらその再婚相手が地元の名士だったらしい。  参列者たちのひそひそ話によれば、初は転落死したことになっていた。義理の娘の死因が自殺では世間体が悪いのだろう。  喪主も初のママではなく養父だったから、今の夫の手前、初ママが昔の男の娘である私を葬儀に呼んでくれただけでも感謝すべきなのかもしれない。  祭壇に近づいてお悔やみを述べると、初のママは夫に「昔、近所に住んでた黄菜子(きなこ)ちゃん。初の面倒をよく見てくれてたの」と私のことを紹介した。   初と私は7歳違いなので、友だちと言うには無理があるから”近所のお姉さん”というわけか。  咄嗟に話を合わせてから棺を覗き込んだけど、花で埋め尽くされていて初の顔はよく見えなかった。  うちのお父さんのときは病死だったから、眠っているみたいに安らな顔をしていた。  でも、マンションの6階から落ちた初は損傷が激しかったに違いない。 「かわいそうに……」  私の口から漏れたのはそんな言葉だけで、初を助けてやれなかった後悔で胸がキリキリと痛んだ。
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