チャンキーヒールの女

3/9
978人が本棚に入れています
本棚に追加
/372ページ
 月曜日は週の始まりの日なのに、なぜか1週間で1番疲れている。  いつもそうだけど、今日は特に。  私は西向山(にしむかいやま)の麓の赤信号で停車すると、首を左右に振ってコキッと骨を鳴らした。  私が勤めている野口保険調査事務所は大手保険会社から業務委託されている小さな調査会社だから、【24時間365日いつでも対応します】が謳い文句だけど一応土日祝日は休み。  だけど、この週末は精神的にキツかったから、ことさら疲れを感じるのだろう。  細い険しい山道を登っていくのは一瞬も気が抜けなくて、私はハンドルを握り直した。  この近くには紅葉狩りの絶景スポットがあるけど、今はまだちらほら色づいている程度だ。  こんなカーブの連続では、うっかり紅葉に目を奪われただけで崖下に真っ逆さまだろう。  ヒヤヒヤしながら車を走らせること30分。  前方にお馴染みのダークブルーのセダンが見えた時は、心底ホッとして大きく息を吐き出した。  セダンのそばに立つ2つの人影のうち、背の高い方は近づいてきたのが私の車だとすぐにわかったようで、身体の向きを変えるとロードメジャーをトランクに入れた。  ロードメジャーは一輪車を細くしたような形の道具で、これをコロコロと転がして道路の距離を測り、あとで事故現場の正確な図面をパワーポイントで作成する。  すでに計測や写真撮影は終わって、撤収作業に入っているようだ。  背の低い方は原田くんで、半年前に入社した新入社員だから先輩である修司(しゅうじ)に同行して仕事を覚えているところだ。  原田くんは全く違う業種からの転職者で、今年24歳。  社会人3年目なわけだけど、ことあるごとに目を丸くして驚いたり感嘆する様子は何とも初々しくて、いつも微笑ましく思っていた。  でも、それは大学出立てで頑張っている(うい)と無意識に重ねていたからだったのかもしれない。
/372ページ

最初のコメントを投稿しよう!