チャンキーヒールの女

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「辞表を出したけど、ボスは受理してくれなかった。『休みたければ好きなだけ休め。どうせうちは完全歩合給だからな』だって」  冷たいようで、実はあったかい人なんだ。野口所長は。  だからこそ迷惑をかけたくなくて退職する決心をしたのに、「いつでも戻ってこい」なんて言われたら泣いてしまうじゃないか。 「いや、だから! どうして辞めようだなんて考えたんだよ。そりゃあ、初ちゃんのことはショックだろうけど、何も仕事を辞めたり休んだりしなくても」 「やらなきゃいけないことが出来たの。それがいつまでかかるかわからないから、退職しようと思った。実際、いつ復職できるかもわからない。だから、修司にだけは挨拶しておきたくて。……今までいろいろお世話になりました!」  運転席に座ったまま勢いよく頭を下げたけど、その頭を上げる前に修司にポカッと叩かれた。 「バカヤロー! これで縁が切れるみたいな言い方すんな! 恋人じゃなくなっても、俺にとっておまえが大事な存在だってことには変わりないんだからな? きちんと説明しろよ。でなきゃ納得できない」  だよね。修司ならきっとそう言うと思った。  でも、どこまで話せばいいだろう。嘘はつきたくないけど、修司を巻き込みたくはない。  逡巡して言葉が出てこない私に、修司は「黄菜子、ヒントだけでもくれ」と畳み掛けるように促した。  私は「あのね」と口を開いたけど、まだ迷っている。 「初の告別式で、あの子の親友に会ったの。高校で初がいじめに遭ったとき身体を張って助けてくれた子で、私も話だけは聞いてたんだけど会ったのは昨日が初めてだった」  ピンク色の髪をツインテールにして、フリルがふんだんにあしらわれた真っ黒いワンピースを着ている彼女は、喪服ばかりの告別式でもすごく目立っていた。  初から『ずっとゴスロリファッションを貫いている子』だと聞いていたから、一目でこの子が千冬(ちふゆ)だなとわかった私は、思わず抱きしめて「来てくれてありがとう」と泣いてしまったんだけど。 「その子から夕べ電話が来て……」  連絡先なんて教えてないのに、突然電話がかかってきてビックリしたんだよね。  でも、彼女の話の内容の方がもっとビックリだった。  「初は自殺じゃないと思うって」と私が続けると、修司はハッと大きく息を吸い込んだ。
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