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苦難の始まりは一瞬のミスから
ガガガ、ガッシャーン!
耳をつんざくような物凄い破壊音と共に身体が激しく左右に揺さぶられた。
目が回り身体のあちこちをぶつけて激痛が走る。
あぁ、事故だ。 やってしまった。 でも、よかった。自分は生きている。
衝撃で割れて剥き出しになったフロントガラスから覗く電信柱を見た瞬間、生きていたことに安堵し、同時に同乗していた娘たちの存在が気になった。慌てて助手席を確認する。シートベルトのおかげで次女はどうやら無事のようだ。
ショックで茫然としているものの出血などの症状はない。
ホッとしたのも束の間、何処からともなく聞こえてくる呻き声にハッとして、慌てて後部座席に目をやる。
そこには横たわる長女の姿。シートベルトを着けていなかった為、衝撃で崩れた荷物に挟まれていた。一瞬で頭が真っ白になる。
「うぅ……痛い……苦しいよ……、足が、動かない」
大丈夫だ。意識はある。生きてはいる。
狭い車内で身体を捻ると右の腰に激痛が走る。私は、振り向くのを諦め、娘の現状を把握しようと無我夢中で車を降り、事故の惨状を目の当たりにして愕然とした。
電信柱にぶつかったせいでフロントはぐちゃぐちゃだし、運転席の後ろで眠っていた長女が居た方のドアはぶつかった衝撃でべっこりと凹んでしまってドアを開けようとしたけれど開かない状態。
後ろのハッチのガラスも大破して横たわる長女に破片が降り注いでいる。
慌てて後ろの荷台から車に乗り込むと、長女の上に乗っていた荷物を退かし呻いている娘の側へと駆け寄った。
もしも頭を打って居たり、骨折しているのなら下手に動かさない方がいいのかも。そう思ってそっと長女の手を握る。
異常に冷たい。 脈はあるけど、呼吸も浅いし顔色も悪い。
どうしよう、娘が死んでしまったら……。
一瞬で目の前が真っ暗に染まったような気がした。
信じたくない現実を目の当たりにして、恐怖と不安で全身の震えが止まらない。
「大丈夫ですか!? もうすぐ、救急車が到着しますから」
誰かの声が聞こえる。視線を上げると割れた窓から中年の男性が心配そうにこちらを見下ろしている。
そうだ、私には守るべき家族がいるんだ。
こんなところでパニックになってる場合じゃない。しっかりしろ、私! 自分に言い聞かせるようにして大きく深呼吸をして、もう一度長女の顔を覗き込む。
血色があまりよくない。まだ、意識は保っているようだけれど、この様子ではいつ昏睡してもおかしくない。
あぁ、どうしよう。なんで、こんなことになったんだろう。
次女のテニスの試合が終わった後、渋滞するからとスマホのナビを頼りに通ったことも無い道を走っていたのがいけなかった?
小雨のぱらつく夕暮れ時で視界も悪く外灯もそこまで明るくない。そんな中、交差点だと気付かずに一旦停止を見落として侵入してしまったのだ。
渋滞に巻き込まれてでも素直に大通りを通っていれば、右から来た車に衝突することも無かったのに。
なんて馬鹿な事をしてしまったんだろう。
今日はたまたま陸上部が休みで家に居た長女を、「偶には次女ちゃんを応援してあげてよ」と言って連れ出したのもいけなかったのかもしれない。
あぁ、そう言えば……。途中で立ち寄ったファーストフード店でコーラを頼んだら、何故か長女のだけコーヒーが入っていたっけ。
あれは、神様からの”行くな”と、言うサインだったのかも。
ぶつかった車の相手は大丈夫だったのだろうか?
色々な思いが脳内で激しく駆け巡り、息をするのを忘れてしまいそうになる。
完全にパニックに陥って泣き叫びだした次女を抱きしめ、大丈夫だから。と、遠くからこちらに近づいて来るサイレンの音を聞きながら何度も何度も自分に言い聞かせた。
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