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そして、入学式が終わって最初の土曜日、私たちは初めて車椅子陸上の練習場所へと足を運んだ。
そこは広い農道だった。全部で5~6人ほどだろうか。 車椅子に乗った大人の方が沢山居て、みんなレーサーと呼ばれる特殊な車椅子を持っている。
「ようこそ陸連へ」
体格のいい、赤い練習着に身を包んだKさんが笑顔で迎え入れてくれる。その日のメンバーの中では40代のKさんがいちばんの若手だと聞いて驚いた。
その日は来ていなかったが一番若い子はまだ9歳らしい。
「今日は若い子居ないけど、何人か居るから安心して。おじさんばっかりでごめんね」
Kさんがそう言うと、周囲からも笑いが起きる。 とても和気藹々としたいい雰囲気だと思った。
私が面白いなぁと、思ったのは自己紹介の時。
「え? 脊損なの? 何番目? 俺は7番」
「俺は8番 昔やんちゃしててバイクで事故って……」
と、そんな会話が次々と飛び出してくる。
Kさんが怪我をしたのは、娘と同じ14歳の頃。15歳で陸上を始めてもう数十年経つと言う大ベテランだ。
一時期は強化選手にも選ばれていたと言う凄い人。
勿論、陸連の中には脊損以外の方も沢山いて、脳性麻痺の方、二分脊椎の方……病気で両足を失った方、脊椎よりも重い、頚椎損傷(首の損傷)の方。進行性の病気で歩けなくなってしまった方。本当に様々な病気やケガの方が集まっていた。
でも、そこに暗さや重い感じはなく、むしろ、みんな生き生きとしていて自分で車を運転してやって来たかと思ったら、自分でレーサーに乗ってビュンビュン走り回っている。
目の前に居る方達はそれぞれに重い障害を負っていて私たち健常者よりも大変な思いをしているはずなのに、そんなものは微塵も感じさせない。
みんな、退屈な日常生活を送っている私たちよりもずっとキラキラと輝いていて、とても素敵だと思った。
娘はまず、体験用のレーサーと言うものに乗せてもらえることになった。ペダルのない三輪車のような形をしたソレに乗り方を教わりながらおっかなびっくり乗ってみる。
「後ろに重心を掛け過ぎるとひっくり返るよ」
と、Kさんに言われた直後にひっくり返りそうになり、みんなで慌てて娘を支えた。
転倒予防に自転車用のヘルメットを着け、白い軍手をはめてゆっくりと手でタイヤを握って漕ぎだす。
「わ、動いた」
そう言って驚く娘を見て、みんな笑っていた。
「しばらくはそれに乗って練習してみよう。体験用だからスピードもそんなには出ないから」
と、言われて娘は嬉しそうに笑っていた。
最初は恐る恐るだった娘だが、暫く漕いでいるうちにコツが掴めたようで、少しずつだが確実に前進していくようになった。
レーサーに乗るのが楽しい。娘の顔にそう書いてあるようで、私までなんだか嬉しくなってくる。
「楽しかった! また練習に行きたい!」
華の綻ぶような笑顔を見たのは何ヶ月ぶりだろうか?
「もう、受験もないし、いくらでも行けるよ」
そう言うと、娘は嬉しそうに笑っていた。
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