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「おー、やってるねぇ。みんな、久しぶり!」
練習を始めて間もなく、元気いっぱいの女性の声が聞こえてきた。
振り向くと初めて見る車椅子の女性の方が居た。そのすぐ後ろからこれまた見た事のない車椅子の男性がやって来る。
O県に住むSさん夫婦だ。
Sさん夫婦は娘が所属している陸連の和気藹々とした雰囲気が大好きで、長期の休みの練習会にははるばるO県から車を走らせて参加しているのだと言う。
無口なご主人と、とても気さくで話しやすく面倒見のいいSさん。車椅子陸上は女性の選手が少ないから、入ってくれてとても嬉しい。そう言って豪快に笑っていた。
練習の合間に、まだ怪我をして間もない娘の足の強張りの事とか、車の乗り降りが中々上手くいかない事とか、細かい相談事にも丁寧に答えてくれて、とても親切に対応してくれた事に凄く感謝している。
この日は、更に普段会わない色々な人達と会えるいい機会になった。
陸連一重い障害を持っている頚損のK田君。彼は世界大会などにも出場し、大分車いすハーフマラソンで何度も1位を獲得している凄い人だ。
首の損傷なので当然手にも力が入りにくい。それでも、自分で車を運転できるし、介助があればレーサーにも乗れる。
私は、何か手伝いたいとは思っても何をどう手伝っていいのか、何処まで手を出していいのかわからずに右往左往しているばかりで、サポートし慣れてる人たちの動きを見ることで精いっぱいだった。
私もいつか、周りの人達のようにサッとお手伝い出来るようになれたらいいな。そう思いながら、何もできない自分にもどかしさを感じていた。
現在はパラ陸上の最高顧問をしているK本さん。貫禄たっぷりなその人は当時他県に住むパラ選手の専属コーチをしていた。
K本さんは娘に興味があるようで、「いつから陸上始めたの?」「怪我してどのくらい?」「他にスポーツやってる?」などと色々な事を質問してきて、まだ始めて間もない上に、今日初めてレーサーに乗ったのだと知って、大層驚いていた。
娘は、そんなK本さんの質問に戸惑いながらも答えていく。
その後、K本さんが漕ぎ方の基本や視線を何処に向けた方がいいかなどアドバイスをしてくれて、それに倣いながら練習をして、笑顔の絶えないとても充実した練習会になった。
この時の私たちは、このK本さんが後々娘の専属コーチになってくれるなんて夢にも思っていなかった。
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