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デビュー戦
そして大会当日。天気はその日も晴れだった。風一つない絶好のコンディションの中、賑やかな音楽と共に大会のセレモニーが行われていた。
軽い練習を済ませ、自分の指定されている番号の列に並ぶ。
「じゃぁ、私はスタート見てたら間に合わないので先に応援ポイントへ行ってます!」
県内一の速さを誇るKさんの奥さんはそう言うと颯爽と人込みを抜けて応援ポイントの5キロ地点へと走って行った。
「まぁ、Kさんは速いから。うちはゆっくり行っても間に合うかな」
そう言いながら笑うのは、K田君のご両親。
「Mちゃん。今日は頑張ろうね! 大丈夫、リラックスしてたらいけるよ」
そう言って、背中を軽く叩いて自分のレーンへと戻って行ったのは5月の練習会に参加していたSさんだった。Sさんのご主人は今回、フルマラソンに参加しているのだと言う。
刻一刻とスタート時刻が迫る中、実家の両親が下の娘達2人を連れて、はるばる応援にやって来てくれた。
「さっき、放送でMちゃんの名前出てたよ。初出場で最年少だって」
「最高齢は92歳だって言ってたぞ」
90代のランナー! 正直凄いと思った。よくよく見てみると、レーサーの後ろに酸素ボンベを背負っている人がいる!
「Mちゃん。レースが始まったら僕を目指してついて来て。ゴールを一緒に目指そう」
そう言ってくれたのは、今大会に5年ぶりに出場すると言うY本さんだ。 娘が出ると知って、ペースメーカーとしての役割を買って出てくれた。
「はい! 頑張ります!」
娘の目にも、力とやる気が漲っていくのがわかる。
「では、只今より大分国際車いすマラソン大会を開催いたします」
大会主催者の挨拶の後、スターターピストルの音が鳴り響く。
まずはフルマラソンの選手たちが飛び出して行った。その5分後にハーフマラソンのスタートが切られる。
私たちは、娘が無事にスタートしたのを見届けてから、応援ポイントである5キロ地点へと走った。
両親は、一足先にゴールである競技場へと向かっていく。
まさか、30代にもなって全力疾走する日が来るなんて思っていなかった。
「お母さん速く! もっと走って。応援間に合わなかったらどうするの!」
次女と3女に促され、ゼィゼィ言いながらなんとか5キロ地点の弁天大橋と言う場所に辿り着く。明らかに運動不足だ。身体が重い。これはもう、ダイエットしなければ……。
5キロ地点に到達するまでにもう既に疲労困憊の私の前をハーフで走るトップ集団が通過していく。
「え、速くない!? 5キロ地点まだ10分も経ってないんだけど」
物凄いスピードで街を疾走する車椅子ランナーたち。沿道の応援にも力が入る。
先ずは、黄色のレーサーに赤いユニフォームを身に着けたKさんの姿を橋の先で捉えた。
「K~!! 頑張れ~!! ファイト―!!」
Kさんの奥さんの一際大きな声援が聞こえてくる。
「頑張って下さい!」
私も精いっぱいの声で声を掛けた。続いていつも練習に参加して一緒に娘と走っているUさん、Tさんがやって来た。娘の姿はまだない。
坂道は無事に登れただろうか? 関門を通過することは出来たのか? 不安ばかりが募っていく。
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