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漸く手術の段取りが付いたと看護師さんに言われたのが日付の変わる20分ほど前。
事故からおよそ、5時間ほど経過した時だった。
「娘さんにお会いされますか?」
「意識はあるんですか!?」
「大丈夫ですよ」
安心させるような穏やかな声に促がされ、痛む右側の足の付け根を擦りながら娘の元へと向かう。
その日着ていたお気に入りのアニメが描かれたTシャツは処置の時にはさみで切られて薄い毛布を一枚着せられた状態で酸素マスクをし、手術用のベッドに横たわっている娘を見た瞬間、あまりの痛々しさに咄嗟に言葉が出なかった。
意識ははっきりとしているようで、私が近づくと娘はうっすらと目を開け困ったように眉を寄せて謝罪の言葉を口にする。
「ごめんね、お母さん。なんだか大変な事になっちゃった。足がね……動かないの……。今から手術だって」
「そっか。頑張って……」
そう、絞り出すのがやっとだった。謝るのは、私の方。貴女は何も悪くないんだよ、と伝えたくても言葉が上手く出て来なくて込み上げてくる涙を堪えるのがやっと。
「行って来るね」
と言ってベッドごと手術室へと運ばれていく娘を見送り、あてがわれた待機室へと移動する。
他に誰も居なくて良かった……。込み上げてくる涙を見られないように俯き、ただひたすら手術の成功を祈った。
******
「お母さん、終わりましたよ。もうすぐ部屋に戻って来ますから」
そう、看護師さんが呼びに来てくれたのは朝5時になろうとする時だった。
約5時間の手術を乗り越えた娘は、酸素マスクをして体中の至る所に管が繋がれている。
痛々しい姿を見て、また涙が込み上げてくるが、娘の前では泣いてはいけないと思って、必死に堪えた。
「お、かあ、さん?」
「目が覚めた? よく頑張ったね」
相変わらず氷のように冷たい手を握ってそう言うと、娘はふっと表情を緩め、暫くするとまた眠ってしまったようだった。
その後、改めて執刀医からの説明を受け、潰れた腰椎をプレートで固定している事、今後の容態次第では輸血が必要になるかもしれない。などの簡単な説明を受けた。
最後に、娘本人への告知をどうするか考えておいてください。と、言われて頭を抱える。
言わなくても、いつかはわかる事。それが遅いか早いかの問題。
だが、中学3年に上がったばかりの女の子に、現実が受け止められるのだろうか?
ドラマなどで時々見かける、年頃の子が大好きだった物が続けられなくなったと知って絶望し、自暴自棄になって人が変わったようになってしまうシーンが
脳裏を過る。
もしも、自分の娘がそうなってしまったら? 脊損になったことを悲観して自死を選ぶ割合も一定数いると、手術を待つ間に調べたサイトには載っていた。
本人に知らせるべきか、それとも言わずに気付くのを待つか。どちらにしても、大きな心の負担になることは間違いない。
私が同じ立場なら、どちらがいいのだろう?
答えは簡単に出そうに無かった――。
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