希望の光

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六月某日、娘の元に車椅子陸上の金メダリストT田さんと言う方が会いに来てくれた。 この方は、2021年東京パラにも出場されている現役のパラアスリートで、未だに女子陸上界のトップに君臨している凄い人だ。 とても気さくな方で、自身の体験や車椅子でも出来ることが沢山ある事、パラリンピックに出た時の状況などを詳しく、中学生の娘にもわかりやすく教えてくれた。 その上で、「Mちゃんは陸上をやっていたと聞いているから、もしも興味があればぜひやってみて欲しい」 「特に女子のパラの世界は凄く狭いから、こうやって出会えたのも何かの縁。また会える日を楽しみにしているね」 と、始終笑顔で励ましてくれた。 でも、先ずは高校受験合格が先。頑張ってね、と釘をさすのも忘れずに。 私自身、実際にスポーツをしている車椅子の女性と出会ったのはこれが初めてで、始終ドキドキしながら娘と一緒になって話を聞いていた。 「自分で出来ることは自分でやって、出来ないことだけ口にすればいい。周りの人は、何が出来て何が出来ないのかがわからないから、自分から口に出すことが大切」 なるほど、と思った。全てを依存するのではなく、出来る事、出来ないことをはっきりさせる。 出来ないことは口で伝える。 私は、娘に怪我をさせてしまったと言う負い目から、どうしても先回りしてやってあげてしまう傾向にあった。   でもそれは、娘の自立を阻害している行為だったのだとこの時気付かされた。 とてもあっという間で短い間だったけれど、凄く貴重な体験だった。 T田さんに会って以降、娘はパラスポーツに興味を持つようになったようだ。  受験が終わったらやっぱり何かスポーツを始めたい。 もしもやるなら、やっぱり陸上がいい。と、言うようになった。 また一つ、娘の目標が出来た瞬間だった。 ただ一つ問題があるとするのなら、何処で練習をするのか、陸上を始める方法は? それがわからない。 私は、娘の為に忙しい合間を縫って陸上を始める方法を模索することにした。 また別の日には元3段飛びの女王N尾さんと言う方が娘に会いに来てくれた。 私はその日、仕事で残念ながら同席は出来なかったけれど、怪我をした時期が近い分、共感する事が沢山あったようだ。 今抱えている悩みや、疑問に思っていることなど一つ一つ丁寧に答えてくれたらしく、面会に行った時に会った娘はまた憑き物が落ちたような表情になっていた。 N尾さんもまた、退院後は車椅子陸上を選び、パラ出場を目指して日々トレーニングに励んでいると言う。 「何かを目標に頑張っている人は、キラキラして眩しいね。私もそうなれたらいいのに」 「なれるよ、きっと。まだ10代なんだから。今から何にだってなれる。諦めたらそこで試合終了って言うでしょう?」 取り敢えず、陸上の事は一旦置いといてまずは退院、そして受験に集中しよう。二人でそう確認し合って、この日はお開きとなった。
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