希望の光

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当初、3か月で完成する予定だった実家のリフォーム作業が業者の都合で大幅に遅れ10月初めまで延びてしまった。 残念で仕方が無かったが、その間に娘が復学後はどのように対応していくのかと言う話し合いと、私の勤務の調整などを行わなければならず、私は相変わらず忙しい毎日を送っていた。 次女が通う新しい中学校にはエレベーターが備え付けられていたが、長女はもう3年生。いきなり見ず知らずの学校に通わせるわけにもいかず、友人が沢山居る方が娘にとってもいいだろうと言う事で纏まり、いいじゃん今まで通っていた中学校に越境通学させることになった。 実家からは18キロも離れてはいるが、背に腹は変えられない。 学校の先生達も娘の復活を心待ちにしてくれていたし、エレベーターが無いのでなんとか代わりになるものはないかと問い合わせたりもしてくれていたようだ。 娘が復帰する1週間前には3年生の生徒だけを集めて、説明会を開いてくれた。 娘が何度も同じことを聞かれずに済むように、気を遣われ過ぎて孤立してしまわないように、娘の怪我がどれほどのもので、何が出来て、何が出来なくなってしまったのか。 反抗期真っ只中の難しい世代にどれだけ私の言葉が響くかわからない。 それでも、私の口から皆に伝えたかった。 私が娘のためにしてやれる事を精いっぱいやろうと決意して説明会に挑んだ。 数百人もいる生徒たちの前で話すのはとても緊張したが、担任の先生も副担の先生も一緒に頑張ってくれたので、なんとか無事に終える事ができた。 娘と仲の良かった友達が、真実を知ってうっすらと涙を浮かべているのが見えたのが印象に強く残っている。 次の問題は高校選びだ。県内すべての学校にエレベーターが設置してあるわけでは無いし、当時は熊本地震の翌年という事もあり、エレベーターがあっても壊れていて使えなかったり、未だに修繕中でいつ終わるのかも未定と言うところがほとんど。 だからと言って、県内一の進学校は根本的に学力が足りない為に却下。 色々な高校に電話を入れたり実際に見学し話を聞いたりして娘を受け入れてくれるところを必死になって探した。 だが、肝心の娘はイマイチ気が乗らないようで、「別に何処だっていいよ。行ければ」 と言う反応だった。 でも、娘が行きたいと言っていた体育科のある学科はどうか? と、言う提案に対してだけ、流石にそれは自分が悲しくなるので候補から外してくれと言われ断念。 中々受験できそうな学校が決まらないのに時間ばかりが過ぎていって私は少々焦っていた。 支援学級も視野に入れて、実際に娘と共に実家から一番近い学校を訊ねてみたりもしたが、そこの先生に「此処はMちゃんには退屈な場所だと思いますよ」と言われてしまった。 娘の退院があと1週間と迫ったある日、私が高校を探しているという話を聞きつけた一人の同僚が「ウチの子が通っている学校、今、車椅子の子いるしスロープも障害者用トイレもあるよ。エレベーターも問題なく使えるよ」と、教えてくれた。 じっくり話を聞いてみると、ウチの職場から車で約10分の距離。実家からは遠いが、娘を送った後仕事へ行く事を考えると最適かもしれない。 早速電話を掛け。事情を話すと快く見学の許可も下りた。 一度、娘と一緒に見に来て欲しいと言われて約束を取り付け、その翌日には二人でお邪魔することになった。 事前に連絡を入れておいたので、校長自ら校門まで出迎えに来てくれて、そのまま応接室へと案内された。 挨拶と簡単な自己紹介の後、体験入学説明会用のビデオを視聴し、学校長自ら校内を案内してくれた。 実際に娘が自走して廊下やトイレ、エレベーターなどを自分の目で見られたのはとても良かったと思う。 一般入試で試験を受け、合格したらと言うのが大前提になるものの、進学先の一つが決まった事で私も娘も安堵の息をつく。 既に娘がリハビリ病院へ転院してから4か月が経とうとしていた。 約半年学校に通っていない為、授業についていけるのか心配していたが、看護師の方や、リハビリの先生、時には主治医の先生がそれぞれ忙しい合間を縫って娘に勉強を教えてくれていたらしい。 きちんと一日のスケジュールの中に勉強と言う時間が設けられていて、娘の入院生活は毎日それなりに忙しかったようだ。 時々やってくる中学校の先生達も娘の為に代わるがわる特別授業をしてくれていたとあとで知った時にはとても驚いた。 先生も、ナースの皆さんも娘の為に忙しい中時間を作ってくれて、本当にどれだけ感謝してもしきれない。 色々な人達のサポートを受けて、少しずつだけど前に進んでいる娘。 普段何気なく生活していた時には気づかなかった人の優しさや思いやりに触れ、人は支え合って生きているのだと改めて実感する。 この時感じた感謝の気持ちをいつまでも忘れないようにしたいと思う。
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