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「仁科さん…」
「さあ行きましょう」
僕は片手で二つの買い物カゴを器用に持ち、どさくさに紛れて藤子さんの手を握り鮮魚コーナーへ向かった。
あっ、ああ…藤子さんっ!手がすべすべで柔らかいです!
ああ…だれか接着剤を偶然を装ってここに塗ってくれませんかーっ!
結局そんな都合のいいことは起こらないので、僕は藤子さんを狩りゲームに巻き込まれないが戦う僕がよく見える場所に残し、「買い物カゴを見ていてください」とかっこよく言い、ゲーム参加者が集まっている所に進んだ。
鮮魚コーナーの前にはテーブルがあり、その上に一人前個包装をされた生蕎麦がいくつも並べてある。
店側は前後左右から今か今かと狩りゲームを待つ参加者が時間前に獲物に手を出さないようにロープを周辺に張っている。
時間が来たらこのロープは素早く回収され参加者は突進していく。そういう手筈なのだろう。
僕は心配そうな眼差しで見守ってくれている女神、藤子さんをジロジロ見ながらイメージトレーニングをした。
「さあタイムセール始まりますよ!五秒前!四、三、二」
店内アナウンスでカウントダウンが始まり、僕や周囲の参加者たちは大きく息を吸い込み神経を研ぎ澄ます。
「一!スタートですーっ!」
法螺貝の音も続けて放送され、参加者が一斉に走り出して床を揺らす。僕もその大波に乗って蕎麦が乗っているテーブルを目指す。
僕より早く着いた参加者達は蕎麦の袋を破くような勢いで商品を取り合っている。
その凄まじさは想像以上だった。
下手すると怪我でもするかもしれない。
僕は固唾を飲んだが、向こうで待っている最愛の人、藤子さんを見れば覚悟は決まる。
藤子さん見ていてくださいね!僕はあなたの為に五袋の蕎麦を必ずや獲得し、僕の大きな愛を添えて藤子さんにお渡ししますからね。
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