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参加者達の表情が急に緩み、ある者らは頬まで桃色に染める。
「ちょっとお兄さぁん、やだもう、怪我はなぁい?大丈夫?」
「もう押した人だぁれ?危ないじゃないのぉ。痛いところないかしら?大丈夫?」
口調までも柔らかくなり、僕が怪我をしてないか確認するようにベタベタと腕や肩や胸を触ってくる参加者たちに、僕は何が起こったんだと呆然としていた。
「あらやだ、硬いわぁ。鍛えてるのねぇ」
「え、うそ。まあホント!硬ぁい」
「うち近いから手当てしてあげるわよ?」
「あら、うちの方が近いわよぉ」
「私絆創膏も持ってるわよ?」
「あたしだって持ってるわよぉ」
目の前で誰が僕の手当てをするかで参加者たちが揉め事を始めた。
僕は怪我などしていないし、このままではよからぬ事態になりそうなので慌てて両手を振った。
「だ、大丈夫です!どこも怪我してませんし。僕はただそば袋が5個欲しいだけなので」
さっさと袋をかき集め退散しようとしたのだが、何故か参加者達は自分の腕に大切に守っていたそば袋を僕に差し出してくる。
「じゃあこれあげるわ」
「え?いえ。そこに残っているのでいいですよ」
「いいのよぉ。久しぶりにこんないい男、生で見せてもらったからぁ」
「そうよぉ、受け取ってぇ。それにしても、ほんと色男ねぇ。もっと見てたいわぁ」
「でも一人5袋までですし、こんなに受け取れません」
「じゃあ、ここはジャンケンで決めましょう!」
誰かがそう言ったせいで、その場でじゃんけん大会が始まってしまった。
そして僕はその優勝者の蕎麦を直接受け取らなければならないらしく、いつまで経っても藤子さんのところに戻れない。
少し離れた所から僕を見守っている藤子さんに顔を向けると、何がなんだかわからないご様子で、ポカンとしている。
ああ…その困惑した表情!可愛いですよ藤子さん!
僕は藤子さんを目の保養にしながら、じゃんけん大会の終わりを待っていた。
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