一緒にすき焼き

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「すぐ冷やさないと!」  火傷をした私よりも切羽詰まった表情をしていた仁科さんは、私を立ちあがらせ台所のシンクに誘導し、ボウルに水を溜めて、冷蔵庫からいくつかの氷を取り出してボウルの中に入れる。 「ここに浸けてください」 「あ、はい…」  指先はジンジンと鈍く痛んでいたけど、それよりも仁科さんの動きの速さの方に気を取られていた。 「ありがとうございます」 「いえ。痛みますか?」 「少しだけ」 「5分から10分は冷やしておいた方がいいって前にネットで読んだことあります」 「そうなんですね」  立って待っているのもなんだからとボウルを座卓があるところまで私に指を浸からせたまま移動してくれた仁科さん。  軽い火傷なのに、私の手を見つめる表情が険しいというか、不安げというか。  いや、心配してもらっているのはすごく嬉しいのだけど、大袈裟なようにも少し感じてしまう。 「仁科さん、すき焼き食べてていいですよ」 「藤子さんが痛みと戦っているときに僕一人だけ呑気に食べてなんていられません」  戦うほどの痛みじゃないですよ、と返したかったけど、口調が真剣過ぎるから喉の向こうに押し返した。  結局指を氷水に浸けている10分の間、すき焼きは弱火のままグツグツと煮込まれ続けていたので、味がしっかり染み込んでいる気がする。それはそれで良かったかもしれない。 「そろそろ氷水はいいですかね」 「あ、はい。もう大丈夫だと思います。ありがとうございました」 「でも念のために応急処置その二もやっておきましょう」 「え?…その二?」  ポカンとしてしてるうちに仁科さんはサッと立ち上がり、慣れたように棚の一番上に常備している救急箱を取り出して持ってきた。
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