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正面に座り直して箱を開け中を物色する様子を見ながら、私は驚いていた。
「仁科さん…、なんで救急箱の場所わかったんですか?」
するとピタリと手の動きが止まり、二秒ほど間をあけた仁科さんは、困ったような笑みと共に徐に顔を上げた。
「すみません勝手に…。僕の家も同じような場所に置いてあるので、体が勝手に動いたといいますか…。何も考えずに開けたら偶然そこにあって…」
「ああ、そうだったんですね」
仁科さんの部屋には入ったことがないけど、もしかしたら似たような家具の配置で、似たようなものを似たような場所に置いていたりするのだろう。
納得した私が一人頷いているのと見ていた仁科さんは、再び箱の中を探し始めた。
「じゃあ軟膏クリームを塗りましょう」
「軟膏クリーム…?私それ…」
持ってないです、と言いかけた口は、仁科さんが軟膏クリームを取り出したので言葉にできなかった。
…あれ、なんであるんだろう。私、買ってないはずなのに。
仁科さんはまだ新品の軟膏クリームを開け、妙に緊張したような面持ちで私の人差し指と親指にクリームを塗る。
その様子は、きっと違和感を覚えていなかったらドキドキしてしまうような時間のはずなのに、私の意識は救急箱の中身に集中していた。
なんか、いろんなものが入っていたのだ。
私の救急箱は箱の大きさに比べて中身は少なかったはずだ。体温計と何年も使っている消毒液と終わりかけの絆創膏の箱と風邪薬くらいしか、入ってなかったと思う。
それが、軟膏クリームから始まり、新品の消毒液、新品の絆創膏、ガーゼに包帯、喉薬、頭痛薬、生理痛の痛み止めまである。
風邪薬にいたっては、坂本さんが前に買ってくれたものとはデザインが違うような気もする。
私の救急箱、こんな充実してたっけ…?
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