一緒にすき焼き

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 疑問符を頭に浮かべたまま私の指に絆創膏を貼ろうとしている仁科さんを一瞥すると、どういうわけか、そんなことあり得るわけがないのに、これは仁科さんが補充したのでは…?という疑いを持ってしまった。  すぐに変なことを考えてしまったとハッとして、そんなわけがないと考えを改める。  きっと私が買ったことを忘れてしまっているんだ。救急箱って実際あんまり開けないし。  それか、前に坂本先輩が体調を崩した私を看病してくれた時に、スカスカな救急箱を見て風邪薬のついでに他のものも買ってくれていたのかもしれない。  そう考えるのが妥当だし、納得できる。というか、そう思わないといけない、と何かが強く言っている気がする。  自己完結すると私の意識は目の前に移動した。  大きくて骨ばった手が労わるようにして私の指に触れ、絆創膏を貼っている。  距離も近いせいで、一気に心臓がバクバクと暴れ出した。 「はい。できました」  急に顔を上げるから、目元を見つめていた私は仁科さんと目が合ってしまったのだけど、なんというか、妙に濃厚でがっつりと視線が絡んだような気がした。 「あ、ありがとう、ございました」 「いえ」  軽く頭も下げて手を引こうとしたけど、なぜか仁科さんが離すまいとばかりに握ってくる。顔を上げてみると、さっきよりも距離が近くなっているように感じた。
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