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「あ。長ネギありましたよ」
長ネギの前で立ち止まる仁科さんの横に並んで、どれも同じような見た目だけど、これがいいかあれがいいかと無駄に時間をかけて選別する。
そうして選ばれた長ネギを、「失礼します」と言いながら仁科さんが持ってくれている買い物カゴに入れた。
しめじと糸こんにゃくも複数ある商品から、どれがいいかと無駄に長く吟味して選び出していく。
どうしてそう無駄なことをしてしまうかといえば、それは実に単純で、選びながら話していると距離が近くなるからだ。
自然と腕が触れ合ってしまったり顔を寄せたり。
そんな機会が増えるから私は一人鼓動を速まらせ、喜びを噛みしめている。
しかも仁科さん、いい匂いがする…!
「あとはうどんですね」
「そうですね。冷凍のにしますか?」
「藤子さんにお任せします」
「じゃあ、そうしましょうか」
足先は冷凍コーナーがある方へ進んでいく。
二人並んで歩いて、途中美味しそうな商品を見れば立ち止まって話をして。
なんか恋人感あったりするのかな、私達。
そんな意識をしてしまうと落ち着いていた脈拍は僅かに上がってしまう。
それがどうしたってくすぐったくて、嬉しくて。
でもちょっと切なかったりする。
きっと仁科さんからしたらこれは、ちょっと親しくなったお隣さんとただ食材の買い出しに来ている、という特別感のない事柄からもしれない。
だから、このひと時に浮かれているのは私だけだと思う。
でも、私にとったら幸せ過ぎる贅沢な時間なんだ。
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