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「あとはうどんですね」
「そうですね。冷凍のにしますか?」
「藤子さんにお任せします」
「じゃあ、そうしましょうか」
そうして僕らは冷凍コーナーを目指す。
すると試食コーナーが見えた。
黄色いエプロンを装着した人当たりの良さそうなマダムが鉄板の上でソーセージの新商品を焼いている。
「いい香りですね」と僕に振り返る藤子さんの方がいい香りがするのでそれをそのまま伝えたい気持ちをなんとか抑えて、僕も微笑む。
「はい。食欲が刺激されます」
しかし買う予定はないので営業スマイルを浮かべる試食係のマダムの前を通過しようとしたのだが。
「あら、男前なお兄さんじゃないの。ちょっと、おひとついかが~?」
マダムはまるで知り合いに声をかけるかのような口調で僕を止め、一口サイズのソーセージをつまようじに挿して僕に差し出してくる。
美味しそうであるが、正直いらなかった。
今は藤子さんと新婚風なんちゃってラブラブショッピングの途中なのだから邪魔をしてほしくない。
結構です、ときっぱりと断るつもりでいたが、藤子さんが「美味しそうですね」と弾ける笑顔で僕を見るので、気が付いたらソーセージを食べていた。
「どう~?美味しいでしょ~?」
「美味しいです」
マダムに聞かれたが、僕は藤子さんの愛らしい両眼を見つめて答えていた。
するとマダムは別のソーセージを藤子さんに差し出す。
「彼女さんもどう~?」
か、彼女!?
なんとマダム、最高に良すぎる勘違いをしているではないか!
「えっ!あ、ち、違いますっ」
驚いたのか藤子さんは頬を桃色に染めて素早く否定する。
ああ、否定しないで適当に笑って流してくれたら僕としては嬉しいのだが、なんとなく焦ってる様子が可愛すぎるし、ああもう……写真が撮りたいっ!
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