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「あら違うの?あっ、奥さんだったのね」
「えっ!?いえ、それも違いますっ」
「まあ違ったの~?あらやだ、ごめんなさいねぇ。お二人お似合いだったからてっきりぃ~。違うのね、そうなのね、まあごめんなさいね~。お詫びにソーセージ二個あげるから許してね~?」
耳まで真っ赤にさせて「いいんですよ」と頭を振る藤子さんの傍らで、僕は感激に震えていた。
いい仕事をするじゃないですか試食のマダム!
僕と藤子さんをお似合いのカップル、または夫婦と見間違ってくださるなんて!
確かにそんな雰囲気がバシバシ出ていたと思うから勘違いしてしまうのは仕方がないことだと思うのだが、僕は…、僕は大変気分がいいですよ!
そうして僕は口を開いた。
「すみません。今ここに出ているそのソーセージ全部買います」
藤子さんは僕を二度見し、マダムは素っ頓狂な顔をして「…全部?」と首を傾げる。
「はい。ここからそこまで、全部です」
「仁科さん…、そんなに気に入ったんですか?」
「はい。心躍らされるひと時を味わいました」
きっとこのソーセージを食する度にこの、夫婦と見間違われたというモーメントを思い出して僕は至福に浸れるのだろう。
そんな意味が含まれていることを知らない藤子さんは唖然としている。
大丈夫ですよ藤子さん!一人じゃ食べきれないので必ずお裾分け致しますからね!
そうして僕はマダムが台に並べていたソーセージの袋を次から次へと、頬を緩ませながら買い物カゴに詰めていくのだった。
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