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「お姉さん、本当にお人よしだね」
さっきは一瞬SHINらしくない言葉を使っていたのは知っているが、私はそれを聞かなかったことにして、救急箱を片付けていた。
「結構、傷深いよ、本当に病院へいかなくていいの?」
消毒をして防水タイプの一番大きな傷パットを買ってきて貼ったものの、縫わなくていいのかと心配になってしまう。
「大丈夫、大丈夫。病院へ行ったら面倒だし」
小さく息を吐いて言うと、SHIN、いや、SHINもどきの彼は少し痛みからか顔をしかめながらそう言葉にする。
「何したのやら……」
聞いてももちろん答えるわけがないと、ため息交じりに言いながらマジマジと彼を見る。
金髪のサラサラの髪、ブラウンの瞳。一見ハーフに見えそうだ。
(やっぱりSHINに似てるな……)
そんなことを思うも、これは現実であり、どうしてこんなことになっているのか追いつかない。
「まったく、変なもの拾っちゃったな……。私着替えてくるから適当にしてて」
考えても仕方がないと、血がついたこともあり、いつも通りシャワーを浴び、ルームウェアに着替え髪を簡単に乾かす。
今頃ビールを飲みながら、ゲームに没頭するはずだったのに。
そう思いながらリビングに戻ると、彼は部屋をキョロキョロと見回していた。
「お姉さん、お金もちなの?」
「違うけど、なんで?」
「あのホテルに勤めてるだけじゃ、こんないいマンション住めないでしょ」
確かにここは、都心のそこそこのマンションだ。
セキュリティもしっかりとしていて、そこそこの階数が安全な場所。
「普通よ、まあ、でも親が買ってくれたから自分の力じゃないけど」
普通よりは少しいいところのお嬢さんだというのは本当だ。父は医者で、兄も医者。
母は専業主婦というより、医者の妻といった人だ。
よくありがちな、できのいい家族の出来損ないの娘が少し道をそれる。
ありきたりすぎて嫌になるほどの自分。理由はともあれ改心して真面目に働く娘に買い与えてくれたマンション。
プライドを持ってそんなのいらない。そんなことを言えるほどの根性もない自分。
中途半端な自分を見透かされた気がして、私はこの話題に居心地の悪さを感じてキッチンへと向かった。
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