2人が本棚に入れています
本棚に追加
「まあ、確かにイケメンだとは思うけど、最低そうじゃん、いつも違う女連れて」
辛辣な言葉にも私は杏子に何言ってるのと言わんばかりに私は小さく息を吐いた。
「いいの、別に話すわけでもないし、ただ見てるだけなら中身はなんでもいいし」
「ねえ、いい加減に生身の男みなよ。二次元の男なんてお腹も膨れない」
目の前のうどんをすすりながら、杏子は現実的な言葉を発する。
「十分だよ。私、恋愛にも結婚にも興味ないし」
そう言って私は目の前の親子丼をレンゲで口に入れた。
「加納、お前結婚に興味ないの?」
「副支配人!」
後ろから聞こえた声に、私はすぐに真面目な表情を浮かべる。
三十代半ばにして、このホテルの支配人を務める、中上慎之介。髪をキッチリ固めて、シルバーフレームの眼鏡。その奥の真っ黒な瞳は知的そうに見える。
「確かに加納は真面目だもんな。男とはなかなか話せないんだろう」
父のような心配そうな瞳に、私が曖昧に微笑むと杏子が「え……」と表情を歪めたのがわかり、机の下で足を軽くける。
適当にごまかして支配人を見送った私に、杏子がボソリとつぶやく。
「でも、男と付きあいたくないのは事実か」
つい出てしまった言葉を、杏子はハッとしあと「ごめん」と謝罪して顔を上げた。
「いいよ、気にしないで」
笑顔で言った私に、彼女も小さく息を吐いた。
最初のコメントを投稿しよう!