クロール

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「お客様がいらしてます。長瀬水季さんとおっしゃる方です」  秘書は告げた。 「そう。すぐに行く」  秘書はバスローブを二枚持って立っていた。白いバスローブと黒いバスローブと。私はシャワーで身体についた塩素を流し、髪を手早く洗う。 「白と黒、どっちがいいと思う」  私が秘書に尋ねると、彼女はしばし躊躇したのち 「し、白でしょうか……」  と自信なさげに言う。 「そう、じゃあ黒にする」  秘書から黒のバスローブを受け取り、応接室へと歩きながら着る。 「お待ちください。その恰好でお会いになるんですか?」  秘書は慌てて追いかけてくる。私は歩くのがすごく速い。 「いいじゃないの。私の客だし、私の会社なんだから」  さっぱりした。日頃の慌ただしさをリセットするために、やはりクロール道は欠かせない。 ≪了≫
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