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 北川の優しいトーンの声が、直接耳に届いて、これは現実なんだと思うけれど、まだ実感が湧かずに夢の中に居るような気がしている。  遠い福岡の地、好きだと言われ、すべてを投げ出して縋ってしまいそうな自分が怖くなり、逃げるようにホテルの部屋を後にした。 ──まさか、また会えるなんて思ってもいなかった。それも、東京で……。  呆然としている愛理の耳に北川の声が聞こえてくる。 「東京へ来てすぐに、あいさんに会えて良かった。電話が繋がらなかったら、あきらめるつもりでいたんだ」 「電話……。どうして……」  ホテルの部屋では、プライベートな話しなどしていない。愛理は自分の電話番号を北川が知っていることを不思議に思っていた。 「ごめん、お店に来たときのお客様のデータから……。コンプライアンスに抵触しているよね」  愛理は施術を受けた美容室で、受付票に記入したことを思い出した。 「そうだったの……。まさか会えると思っていなかったから……驚いちゃって」  キャメルカラーのリバーコートにパンプス、ビジネスバッグを持つ愛理の姿を見て、北川は問いかけた。 「ぼくも会えるとは思っていなかったから驚いたよ。この後、なにか用事がある?」 「ごめんなさい。今日は仕事で、お客様のお迎えに来てるの。夜……電話します。さっきの電話番号に折り返せばいい?」  愛理から連絡をくれると聞いて、北川が堀りの深い整った顔をほころばせた。 「なんだ、お茶でもと思ったのに残念。夜、何時になってもいいから、電話まってるよ」
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