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「よし! いい感じ」
自分の部屋に届いたばかりの家具の乾拭きが終わり、愛理は満足げにうなずいた。
菊菱金具を使用し、黒柿色(深く渋い茶色)の見た目も美しい階段箪笥は、名前の通り階段として使い、ロフトに上がることが出来る。
そのロフトにマットを敷いて布団で寝れば、狭い部屋も広く使える。
琉球畳の上には、念願のコタツを置く。
急な引っ越しで何もなかった部屋が、やっと整い、人が暮らす部屋となった。
正直なところ、翔と結ばれた日から、愛理は自分の部屋に帰るのは、着替えや身支度をするときだけになっている。
生活のほとんどを翔の部屋で過ごし、蜜月な日々を送っているのだ。
そんな自分につい言い訳をしてしまう。
「翔くんが出張のときには、自分の部屋で寝るからね」
今日は土曜日だけれど、翔は休日出勤で会社へ行っている。
福岡の商業施設のプロジェクトが大詰めで、来週はまた福岡行きが決定していて、かなり忙しそうなのだ。
我がままかなと思いつつ、仕事とはいえ翔と数日離れるのは、やっぱり少しさみしさを感じてしまう。
「明日は、お休みだって言っていたし、部屋でまったりしよう」
ふぅっと息を吐き、雑巾を洗うために洗面所へ足を向けようとした。すると、コタツの上に置いてあるスマホが振動を伝えた。
トップ画面に通知のお知らせが表示される。
それは、北川が勤める美容室からのLIMEメッセージで、普通にお店の割引クーポンがついていたり、お得な情報が出ていたりするものだ。
メッセージマークをタップすれば、予約もすぐに出来る仕様になっている。
サラッと確認だけして、洗面所に入り雑巾を洗い始めた。
洗面台の鏡に映る自分は、少し髪が伸び、目立たないけれど、生え際は地の色が出ていて、少し複雑な気持ちになる。
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