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気に入った髪型にしてくれるからと言って、北川の勤める美容室へ行くようなことはしたくない。
もしも、翔が元カノが居るお店に通うようなことをしていたら、気分が良くないからだ。
勝手かもしれないけれど、今の幸せを壊すようなことは出来ないから、北川が勤める美容室には行かないつもりでいる。
食事をしたのを最後に北川からの直接の連絡はなかった。
仕事で上京して来たのだし、たまたま羽田で再会したから、社交辞令で食事に付き合ってくれたのかも知れない。もしも、連絡があったら、お付き合いを始めた人がいると、伝えるつもりだ。
少しだけの罪悪感を抱きつつ、愛理は伸びた髪を結んだ。
洗面室から出ると、眩しいぐらいに部屋の中に日が差し込んでいる。
窓の外は青空が広がり、穏やかな冬晴れの天気だ。
せっかくの休み、着替えて買い物に出かけようと仕度を始める。
着回し力のあるベージュのニットに長めのプリーツスカート、フード付きのロングコートを羽織れば寒くは無いだろう。
着合わせをして、再び鏡の前に立つ。すると、どうしても伸びた髪が気になってしまう。
前に行っていた美容室は、淳とのマンションの近くだった。
淳と離婚した今となっては、行くのはためらわれる。
「どこか、別の美容室を探そうかな……」
マンションから商店街を抜け、駅までたどり着いた。駅の階段に差し掛かると、この前、階段で押されたことを思い出してしまう。
少し怖い気がして、手すりを掴み用心深く階段を下る。
偶然、強くぶつかってしまっただけかも知れない。
それに、美穂が押したという確証も何もない。
けれど、不安を拭いきれずにいる。
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