1初戦

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1初戦

僕は負けたことがない。 多分最強? 始まりは、確か小学生の頃。 幼なじみのエリカが、ガキ大将のガウルに苛められていた時。 走って逃げてきた彼女が、僕の後ろに隠れた。 おい、おいと思っていると、あっという間にガウルとその仲間達に囲まれてしまった。 いいように言えば穏やか、悪く言えばいい加減な性格の僕は、人と争い事になるのが面倒だった。 幼稚園でブランコに乗っていた時も、「かーわって」と言われると、直ぐにブランコから降りた。ブロックで遊んでいた時も、「かーして」と言われると、使っていたブロックも直ぐに手渡した。 何のこだわりも無ければ、物への執着もない。 だから、今まで、喧嘩どころか、争いになったことも一度もなかった。 まさか、こんなテレビでしか観たことが無いようなシチュエーションに、自分が陥るとは思いもよらなかった。 ガウルが凄い目で僕を睨みつける。しかし、不思議と恐怖は感じなかった。 僕は殴りかかってくるガウルの右拳を、冷静に左腕で受け止めると、自分の右拳を奴の腹に一発ぶち込んだ。 「ぐふっ」 ガウルは、うめき声を漏らすと片膝をついた。 「ガウル!」 取巻きの何人かが騒ぐ。 「ナオト、てめぇ…」 ガウルは片膝をついたまま凄む。しかし、その顔には脂汗が浮き出ていた。 「覚えていろよ」 お馴染みの捨て台詞を残して、ガウルは取巻きの一人に支えられながら、その場を後にした。 エリカは、ガウルをワンパンで沈めた僕を見て、暫く目を白黒させていたけど、我に返ると、 「ふんっ」 と、なぜか不機嫌な表情を浮かべて、ずかずかと立ち去ってしまった。 その後、エリカから礼を言われることも無ければ、ガウルから仕返しを受けることも無かった。 それが、僕の初勝利だった。 どうでもいいけど。
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