2麒麟

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2麒麟

僕の二戦目は、図らずも小学校の修学旅行でのことだった。 結界師が張った結界に守られたバスに乗って、僕達は、遥か昔、この国の都があった良奈(らな)を訪れた。 籐大寺にある大仏を見た後、グループ毎に分かれてウォークラリーが始まった。僕達のグループは、倭伽草山の前を通って弐月堂を目指した。倭伽草山の周りには、たくさんの鹿が歩いていて、僕達はあらかじめ貰っていた鹿煎餅をあげた。僕が差し出した鹿煎餅を、その鹿は一瞬で食べてしまった。その後、鹿は何度もお辞儀をして鹿煎餅をねだった。 「かわいいー」 グループの女子が黄色い歓声をあげる。しかし、鹿の方もよく心得ていて、彼女達が差し出した鹿煎餅を食べつくすと、直ぐに踵を返して他の観光客の元へと歩いて行ってしまった。 「あーあ、行っちゃった」 昔は神獣として崇められていた鹿も、今ではすっかり人に飼いならされていた。 その後、弐月堂に着いた僕達は、舞台から良奈市街を見下ろした。先程見学した大仏殿が小さく見える。眼下に見える街並みはとても美しかった。遠くに見える緑の山々に囲まれた街並みを見ていると、良奈が盆地であることがよく分かった。ひと際大きな山が居駒山で、その山を越えると逢坂だった。目には視えないが、良奈を包む結界は居駒山の麓まで伸びている。 弐月堂の見学を終えた僕達は、次の見学場所である宵倉院に向かった。校倉造で有名な国宝だ、と社会科が専門である担任のヤマザキが言っていた。 その途中、僕は突然、猛烈な腹痛に襲われた。慌てて近くにあった公衆トイレに駆け込む。何とか事無きを得てトイレの外に出ると、グループの仲間はもういなかった。 まあ、そのうち追いつくだろう、そう思って、しばらく歩いて行くと、遠くから何かの視線を感じた。凛とした冴え渡るような冷気を纏った視線。
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