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1 通りすがりの告白
「好きです」
「……え?」
「俺とつき合ってください」
「ええっ!」
ここで問題点がふたつ。
まずひとつ、今は昼休み明けの仕事中で、職場の廊下で、糸井真子は会議室へ向かう途中だ。しかも真子は昼食後にお昼寝をしすぎてしまったので昼休みが終わるギリギリに起きてしまった。一時ちょうどから始まる会議に遅刻しているため、廊下を走っていたところだ。
そしてもうひとつ。
彼――君島司は、真子の後輩であり、真子は彼の教育係でもある。ちなみに、そんな素振りなど一切見せたことのない仕事に真面目な、好青年だった。
これは、冗談?
「返事は?」
司は淡々として答えを求めてくる。
真子は腕を上げて時計に目を落とす。もう五分は過ぎていた。やばい、と顔を上げた。
「え、えっと、わかった。じゃあ私急いでるから!」
適当な返事をし、黙ったままの司を置いて、真子は走り出した。
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