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3月が終わり4月。
4月が終わり5月。
時は過ぎ去り、ふたたび桜の季節。
淡いピンク色は、とある高等学校の正門から校庭からすべてを彩っていた。
ふわふわの綿菓子が広がるようなその光景に、制服姿の朱音の心は踊る。
髪も身長も、あのころよりうんと伸びた。
「朱音ちゃん?」
ふと、聞いたことのない声に呼ばれて振り返る。
やはり見たことのない男の子がこちらを向いて笑っている。
朱音と同じく入学式用のリボンを胸ポケットにつけて、嬉しそうだ。
「えっと……こんにちは」
「こんにちは。あ、飛行機雲」
男の子がそう言って空を見上げる。
朱音もそれにつられる。
長い長い
白い白い飛行機雲。
うねるように生き物のように、天まで伸びていた。
「白くてまっすぐで、白猫の尻尾みたいじゃない?」
朱音は少しばかり目をむき、それから首を傾げて見せる。
「……ホワイト?」
そう聞くと男の子が頷く。
愛嬌のある可愛らしい男の子だった。
「心も身体も元気になったから、やっとこの姿で朱音ちゃんに会えるよ」
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