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愛菜が蓮司を選び一週間が経った頃、シェアハウスはいつもの日常を取り戻し始めていた。
「あれ? 蓮司兄さんはまだ起きていないんだ」
最初に朝食を終え一度自室へ戻った蓮夜は、またリビングへと戻ってきた。 今は蓮人が朝食をとっている。
「うん。 まだ蓮司くんは起きていないかな」
「蓮夜兄さんはどうして下りてきたの?」
蓮人が尋ねた。
「蓮人と愛菜ちゃんを二人きりにさせたくないからだよ」
「何それ」
あれ以来多少気まずくなったが、一週間も経てば少しずつ前のような関係に戻ってきた。 相変わらず蓮夜は優しくしてくれるし蓮人は頼ってくれる。
「愛菜ちゃん、次の買い物はいつ行くの?」
「明日の夕方にでも行こうかなって思ってる」
「そっか。 その時にまた僕を誘ってくれる?」
「もちろん。 いつもありがとね」
蓮夜と話していると朝食を終えた蓮人は食器を流しへと運んだ。 腕捲りをして蛇口を捻る。
「あ、蓮人くん! 片付けは私がやるよ?」
「俺も手伝う」
そう言って自分の使った食器を洗い始めた。 告白する前の蓮人からは考えられなかった言葉だ。 愛菜と蓮人が二人並んで流しにいる光景を羨ましそうに蓮夜は見ている。
その時慌ただしく階段を下りる音が聞こえてきた。
「寝坊したッ!!」
「お、蓮司兄さんおはよう」
部屋着姿で寝癖が付いたまま蓮司は顔を出した。 それを見て愛菜は言う。
「蓮司くん、おはよう! 今朝食の準備をするね」
蓮司はテーブルについて溜め息交じりで蓮夜に言う。
「どうして寝坊してんのに起こしてくんなかったんだよ・・・」
「何度も起こしたって。 蓮司兄さんのことだからどうせ深夜まで予定を考えて眠れなかったんでしょ?」
「べ、別にそういうんじゃ・・・」
「動揺し過ぎ。 それに出発は9時。 まだ今は8時半だからギリギリセーフなんじゃない?」
「セーフじゃねぇ! あと30分でどう準備しろってんだ!!」
「そんなに怒らないの。 当の本人は怒っている素振り見せていないでしょ」
当の本人である愛菜は楽しそうに朝食を盛り付けている。
「出会った頃は二人の表情真逆だったのにね?」
悪戯っぽく蓮夜がそう言うと愛菜は朝食を蓮司の前に置いた。
「はい、どうぞ」
「よし。 蓮人ー? 僕たちはもう戻ろうかー」
入れ替わるように蓮夜は席を立ち流しにいる蓮人を無理矢理連れてリビングを出ていこうとする。
「え? 片付けがまだ・・・」
「あとはもう任せちゃえばいいよ。 ここからは二人きりの時間」
「蓮夜兄さんだけズルい。 明日愛菜と二人きりで買い物へ行くくせに」
「そう? それを言うなら蓮人もズルいでしょ。 学校で愛菜ちゃんと同じクラスなんだから。 それに一緒に部屋で勉強していることも知っているんだからね?」
二人は話しながらリビングを出ていく。 その会話は愛菜と蓮司にも聞こえていて蓮司は不満そうに言った。
「何なんだよ、アイツら。 愛菜は俺のもんだっつーのに」
不貞腐れている蓮司に言った。
「私は9時半出発でも大丈夫だよ?」
「なッ、9時に出発くらいできるし!!」
ムキになった瞬間、蓮司は誤って飲み物を零してしまった。 着替えていなくてよかったが、カッコ悪いところを見せてしまい蓮司は少し凹んだ様子だ。
「蓮司くん大丈夫!? もう、慌てん坊なんだから・・・」
「誰が慌てん坊だ!!」
愛菜はハンカチを取り出し拭いてあげた。 そのハンカチはかつて蓮司からもらったハンカチだ。 一週間前に蓮司と結ばれた時返そうとしたが、愛菜が持っていてほしいと言われ今でも持っている。
「・・・今そのハンカチを使うのか」
「駄目?」
「駄目じゃないけど」
「ただ保管しておくのは勿体ないと思ったの。 折角の二人の大切な宝物だから色々な場面で手に取って実際に活用したいなと思って」
「ふぅん・・・」
少し間を置いて蓮司が言った。
「・・・愛菜。 一週間前はちゃんと言えなかったから今伝える」
「うん?」
「ここで再会した時はずっと俺に突っかかってきたよな。 怒りっぽい愛菜も可愛かった。 でもこれからは愛菜をたくさん笑わせてやるから」
「ッ・・・」
「蓮夜と蓮人の前でも笑っていてほしいけど俺の前では一番笑ってほしい。 俺が愛菜に楽しい毎日を送らせてやる」
その言葉が嬉しくて愛菜は涙目で頷いた。
「・・・うん。 でもその言葉、今日の初めてのデート中に聞きたかったな。 パジャマ姿で言われても・・・。 まぁ、それがレンちゃんらしいか」
「ッ、俺の振り絞った勇気を返せ!! あとレンちゃんは止めろ!!」
蓮夜にはデートのスケジュールを立てるのに悩み寝坊したと言われていたが、本当はこの告白を考えるのに悩み寝坊してしまったのだった。
-END-
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