三つ子のシェアハウス

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「おはよう、愛菜ちゃん。 いい匂いがするね」 リビングで待っているとまず現れたのは蓮夜だった。 大体いつも早く起きてくるのは蓮夜で既に着替えて身支度をあらかた済ませている。 「おはよう、蓮夜くん。 休日なのに早起きだね?」 「それは愛菜ちゃんのおかげだよ。 美味しい朝食を作って待ってくれているから早起きしようって思えるんだ」 そう言われると素直に嬉しい。 「まぁ、これは蓮司兄さんや蓮人も同じだと思うけどね?」 蓮夜は冷蔵庫から牛乳を取り出すと朝食のある席に座った。 愛菜は食事を用意し、各々が自分のタイミングで食事を摂る。 それがシェアハウスでの習慣だ。 愛菜も同様に先に食べていてもいいと言われているが、何となくいつも待っていた。 それを咎められることもなく、自由にできることは愛菜にとって有難かった。 「いただきます。 ・・・んー、やっぱり愛菜ちゃんが作った料理最高!」 美味しそうに頬張る蓮夜を見ていると朝食を用意した甲斐があるなと思う。 ―――思えば蓮夜くんの印象って出会った時から変わらないな。 蓮夜は出会った時からとても温かく柔らかい人だった。 それは愛菜がシェアハウスへやって来た一日目から感じたことだ。 愛菜の入居と待遇が決まったが、当然勝手は分からない。 自分一人ならともかくとして、いいと言われてはいてもシェアハウスで自由に振る舞うのは少々気が引けた。 「そうだ! このシェアハウスの中を案内してあげるよ。 愛菜ちゃんは内見していなかったよね?」 これは愛菜がここへ住むことが確定した後の話だ。 「あ、うん」 「なら僕が案内してあげる。 おいで」 そう言ってリビングを離れる蓮夜の後を付いていく。 初日で戸惑う愛菜に最も声をかけてくれたのが蓮夜だった。 「ここがお風呂でお手洗いはさっき案内したよね。 そして、ここが一応キッチンなんだけど・・・」 「キッチン!? え、汚ッ!!」 思わず出た言葉に口を噤む。 キッチンはあまりにも散らかり過ぎていた。 シェアハウスの外観やリビングなどは綺麗なのにここだけ別世界のようだ。 これからここで料理をしろということなのだろうか。 乱雑とした調理道具に現れていない皿が山のように積まれている。 それも一日二日のものではなく、そのまま放置され長い時間が経つように見えた。 これでは綺麗だったはずのシステムキッチンも台無しで、足の踏み場もほとんどないのだ。 「はは、ごめんね。 愛菜ちゃんがここへ来るまでの一週間は僕たちがローテーションでご飯作りをしていたから。 片付けは僕も手伝うよ」 「ありがとう・・・」 「そう言えば愛菜ちゃんはどこの部屋にするのか決めた?」 「ううん、まだ。 私の荷物は・・・」 「とりあえず二階の角部屋に移動させてあるよ。 希望する部屋があったら移動させるから」 「蓮夜くんたちは仲がいいから三人並んでいる部屋とか?」 「仲はいいけどべったりするような関係ではないよ。 だからみんなバラバラ」 「そうなんだ・・・。 なら荷物のある二階の角部屋でいいかな」 「分かった」 ―――何か蓮夜くんって一番感じのいい人。 ―――ここへ来て間もないけど一番一緒にいて安心できるかも。 その後キッチンの掃除は最後まで手伝ってくれ、色々と教えてくれた。 もし蓮夜がいなかったら、シェアハウス生活はもっと前途多難なことになっていたのかもしれない。 「愛菜ちゃん?」 「え、あ・・・。 何?」 名前を呼ばれて我を取り戻す。 どうやらまだ朝食を摂っているのは蓮夜だけの様子だ。 「愛菜ちゃんは今日、何か予定はあるの?」 「ううん、特には。 買い出しくらいかな?」 「そっか。 その買い出しには僕を誘ってね。 僕も今日は家の中にいるからさ」 「いつもありがとう」 ―――今はただただ蓮夜くんの好感度が一番高い。 ―――変に気を遣う必要がないし私も自然体でいられるから。 ―――・・・そうだ、今は二人だし折角だから聞いてみようかな? もう一度ポケットの上に手を添えた。 この中にはレンちゃんから借りっぱなしのハンカチが入っている。 いつも肌身離さず持っているが、どこかで落としたら困るため必要以上には取り出さない。 「・・・あのさ、蓮夜くん。 一つ聞きたいことがあるんだけど」 「うん? どうしたの?」 「私の名前を聞いて何か思い当たることはない・・・?」 恐る恐る尋ねると蓮夜は首を傾げた。 「うん? ・・・いや、特には。 可愛い名前だなって思うよ」 「・・・そっか、ありがとう」 その答えを聞いて心に影を落としたような気がした愛菜は咄嗟に顔を背けた。 そんな表情を見られたくなかったからだ。 ―――蓮夜くんじゃないのか・・・。 ―――ちょっとがっかりした自分がいるな。 ―――私の印象では一番レンちゃんに近かったのに。
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