三つ子のシェアハウス

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「手伝ってくれてありがとう。 あとは私だけで十分だよ」 「今日もプリン作る?」 「もちろん。 そのつもり」 そう言うと蓮人は表情を少しだけ柔らかくしてこの場を離れていった。 ―――蓮人くん、分かりやすくて可愛いなぁ。 解散する雰囲気になると蓮夜もリビングを出ていく。 蓮司はまだ何か雑誌を読んでいたが、蓮夜がいなくなるのを見届けると声をかけてきた。 「今日は蓮夜と一緒に買い出しか?」 「うん。 午後から行く予定」 決まっているわけではないが、暇な時は蓮夜がいつも買い出しに付き合ってくれている。 4人分となるとそこそこ重くいつも助かっていた。 一週間の献立を何となく考えていると、突然蓮司がパンパンとソファを叩く。 「暇になったなら俺の隣に来る?」 「行きません」 「今なら俺の隣に誰もいないから愛菜だけの特等席だぞ?」 「だから行きませんッ!!」 「ったく。 愛菜は本当に意地っ張りだな」 ―――つい意地を張ってしまうのは蓮司くんにだけ。 ―――何か意図があるわけじゃないけど、ついそうなっちゃうんだよね。 これは愛菜がシェアハウスへ来た時から今でも変わらない。 二日目のことである。 初めてのシェアハウスでの朝を迎え、朝食を作っていると蓮司と蓮夜がやってきた。 「おぉ、愛菜か。 起きるの早いな」 「みんなの分の朝食を作らないとだからねー。 蓮人くんは?」 「アイツは朝が弱いんだよ。 蓮夜、起こしにいってくれないか?」 「了解。 愛菜ちゃん、おはよ。 朝早くからありがとね」 そう言って笑顔を見せると蓮夜は出ていく。 ―――やっぱり蓮夜くんが一番素敵・・・! 「これは?」 蓮夜に見とれていると蓮司がテーブルにあるモノを指差した。 「お弁当だよ。 三人の分のね」 「マジで!? 彼女が作ってくれたって言ってもいい?」 「彼女は駄目!!」 そんなこんなで朝食を済ませ家を出ることに。 そこで洗面所から戻ってきた蓮人と会った。 「蓮人くん! おはよ。 昨日はプリン食べた?」 蓮人は小さく頷いた。 「どうだった!?」 「・・・美味かった」 「本当に!? よかったぁ!」 「・・・その、また作ってくれる?」 「もちろん! って、え? もう全部食べたの!?」 「プリンの材料代はちゃんと出すから」 「そんなに気に入ってくれたのなら早速今日帰ったらまた作ろうかな・・・」 ―――蓮人くんと距離を縮められる折角のチャンスだからね。 ―――それに私が作ったプリンを好んでくれるのは凄く嬉しい。 別れると蓮人と入れ違うように蓮司がやってきた。 「もしかして蓮人と二人で話していたのか?」 「そうだけど?」 「へぇ、珍しいな。 アイツ、朝は凄ぇ機嫌が悪いのに」 「そうなの? そんな感じはしなかったけどなぁ」 「愛菜だけは特別なのかもな? ほら、行くぞ」 「行くって?」 「学校に決まってんだろ?」 「あ、いや! 私はまだ行かない! 蓮司さんが先に行っていいよ!」 「誰か待ってんのか? つか、どうして俺にだけ“さん”付けなんだよ」 「何となく・・・。 それに誰も待っていないけど」 「なら早く行こうぜ」 「でも私、蓮司くんと一緒に行きたくないから!」 「何で?」 「入学して早々、変な噂を立てられたくないからかな・・・?」 正直にそう言うと蓮司は不機嫌そうな顔をする。 「そんなに俺のことが嫌なのか?」 「そういうんじゃないけど、これは誰が相手でもそうで・・・」 「寧ろ俺は自慢できるけどな? 俺の隣を歩くのが愛菜なら」 「なッ・・・!」 「いいから行くぞ」 「ちょっと!! 私は許可を出していないんだけど!?」 「愛菜は素直に俺に付いてこればいいんだよ。 つかさ、愛菜って俺にだけ怒りっぽくね? どうして俺だけそんなに当たりが強いの?」 「それは蓮司くんが強引だから!」 「俺たち三つ子と愛菜を合わせれば喜怒哀楽が完成するな」 「喜怒哀楽って・・・。 流石に無理矢理」 「そうか? 俺は素直に4人を表すのにピッタリだと思ったけどな」 強引に腕を引かれ一緒に登校することになった。 ただ自分を喜怒哀楽の怒りに充てられたりして少し不機嫌だ。 ―――って、やっぱり怒りっぽいのかな・・・。 落ち込んでいるのを見てか蓮司は楽しそうに言った。 「そうだ! 昨日のカレーといいデザートのプリンといい、滅茶苦茶美味かったぞ。 愛菜は料理のセンスがあるな」 「・・・え、本当に?」 「当たり前だろ? 俺が嘘を言っていないのは蓮夜や蓮人の様子からでも明らかだ」 ―――褒められるのは悪くないな・・・。 ―――素直に嬉しい・・・! ―――それにさり気なく道路側に回ってくれるし、案外優しいのかも・・・? ―――やっぱり一番頼れるお兄さん感はある。 ジッと蓮司を見ていたからか視線に気付かれてしまった。 「何? もしかして俺に見惚れた?」 「違ッ・・・」 「いいよ? このまま手でも繋いで登校する?」 「絶対にしないッ!!」 現在 ―――出会った時から私をからかったり無邪気な笑顔を見せてくるのは変わらない。 二人きりになったのを機に蓮司にさり気なく尋ねてみた。 「あのさぁ、蓮司くん」 「ん?」 「私の名前を聞いて何か心当たりはない?」 「愛菜の名前? どうして?」 「いや、特に理由はないんだけどね」 「別に心当たりはないかな。 いい名前じゃないか」 「・・・ありがとう」 たまに素直に褒められると調子が狂う。 ―――三人共違った。 ―――じゃあレンちゃんはやっぱり違う人か・・・。 そんな簡単に都合のいいことなんて起きるはずがない。 そう思っていても、もし三人の誰かだったらいいなと願っていた“レンちゃん”が別人だったならまた存在が遠くなり寂しくなるなと感じた。
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