夏の音を聴かせて

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「本当に夏音だな」 来斗は、事務所に戻ってくるなり、私を見ながら切長の瞳を細めると、Tシャツの袖で額の汗を拭った。 久しぶりに見た来斗は、見慣れない黒髪に、左耳に三つ空いていたピアスの穴は塞がっている。私の知らない大人の来斗に、心臓がぎゅっとなる。 「二人が、知り合いだなんてね」 和穂が、垂れ目の瞳を更に下げた。 「五年、ぶりか?」 「そ、だね」 もう別れて五年も経つのに、来斗の顔をうまく見れない自分に戸惑ってしまう。 「陸奥さん、(あずさ)の産休の代わりが夏音?」 (梓……?) 「えぇ。そうよ。この間、梓ちゃんから、生まれた夏来(なつき)ちゃんの写真見せてもらったけど、目元は、来斗君かしらね」 一瞬で、頭の中が、真っ白になる。 「あー、そうすかね。鼻とか口元は、完全、梓ですけどね」 本来なら元恋人とはいえ、久しぶりに会って子供が産まれたばかりだと言う事を聞いたのならば、おめでとう位言うのが普通なのかもしれない。私は、パソコンの画面に視線を向けたまま二人の会話に耳を傾ける。 「梓ちゃんも、三ヶ月と言わず、いくら此処から実家が近いとはいえ、もうすこし休めばいいのに」 「言ったんですけどね、アイツ意地っ張りなんで。あと仕事で息抜きしたいみたいです」  「ふふ、梓ちゃんらしいわね」
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