夏の音を聴かせて

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「結婚してるくせによく言うよ、私にとっては、ただの沢山ある恋愛の一つ。それだけ」 「あっそ!悪かったな、オマエに取っては、沢山ある恋愛の一つを俺だけ引きずってて!もう言わねぇよ!」 来斗は、再びハンドルを握ると、一言も話さなくなった。さっきまでの楽しい会話のひとときが嘘みたいだ。 本当は、来斗と再会して、驚いたけど、嬉しかった。運命だなんて、勝手にそんな都合の良い言葉が浮かんで、でも来斗が、結婚してると知って、すぐに(あふ)れそうになる想いに蓋をするのが精一杯だった。 だって私と来斗の未来は、もう二度と重なるのことがないから。 交わることがない想いは、紙飛行機のように、折りたたんで、遠い海の向こうまで飛んでいったら、心はラクになれるのに。 私は、目尻の奥が熱くなるのを堪えると、視線を窓辺に移し、ひたすら海の青さだけを食い入るように見つめた。
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