夏の音を聴かせて

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「私、朝、誰もいない教室で絵を描いてて。その時、来斗を見かけて……朝早くから誰もいないグランドを走ったり、人目につかない校舎の裏で腕立てしたりして、体力作りに余念がなくて、部活もいつも最後の一人になるまで泳いでて、いつも一生懸命で……私も頑張ろって思わせてもらってた」 私の小さな胸は、はちきれんばかりに音を立てて苦しい。 「夏音こっち向いて」 顔をあげれば、来斗の瞳が真剣で、その綺麗な切長の瞳に吸い込まれてしまいそうだ。 「俺、好きなんだけどな」 「え?」 「夏音の絵も、夏音も」 いつのまにか、照りつけていた太陽は、オレンジ色の光を纏いながら、水平線目掛けて、ゆっくり下降していく。 「俺を夏音の一番にしてくれない?」 来斗が、キョトンとしている私を見下ろしながら意地悪く笑った。 「告ってんだけど?夏音、俺と付き合えよ。で、今からキスするから」 返事をしないまま、私は、ゆっくり近づいてくる来斗の顔を見ながら瞳を閉じた。 私達の赤い顔を誤魔化すように、暖色に変化した太陽の光に照らされながら、波音に想いを乗せて私達は、触れるだけのキスをした。
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