1.疑い

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 それを返してもらえないのは間違いないし諦めているけれど、間違いなく足りる。  それに、弘毅さんの財布にはこの前私の財布から持って行った三万円があるはずだ。  ある、はず......。 「――映画館でだけ売ってるグッズとかあるらしいけど」 「うん......」  そういうのは、パパの気持ちで買ってあげるものじゃないのだろうか。  そう思いながら、私は財布から二千円を手渡した。 「いつもいつも、ケチくせぇな」  七千円を財布にしまうと、弘毅さんが部屋から出て行った。  怒りや悲しみがない交ぜに押し寄せ、その感情を飲み込もうと唇を噛む。 「ママ!」  息子の声にハッと顔を上げ、私は部屋を出た。  いつもの靴に足を入れようとしている幸大に、まだあまり履いていないきれいな靴を出す。 「行ってらっしゃい。パパの言うことを聞いてね」 「うん! 行ってきます!」  笑顔で手を振ると、幸大は父親の後に続いて出て行った。  きっと今、誰より不安なのは私だ。  弘毅さんと幸大の二人で出かけることなんて、まずない。  二年位前、二人でスーパーに買い物に行った時に幸大が迷子になって大騒ぎした以来じゃないだろうか。  大丈夫かな......。  何事もなく、楽しかったと幸大が笑って帰って来てくれたらいい。  私は、弘毅さんが急に幸大を連れ出した理由が気になりつつ、目を瞑った。
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