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映画館まで四十分。
映画は一時間半。
早くて三時間。遅くても四時間あれば帰って来るはず。
が、もう五時間になる。
一時間前に弘毅さんのスマホを鳴らしたが、出なかった。三十分前も。
何かあったのではと不安になる。
複合施設だから、店を見たり遊んでいるならいい。
幸大が楽しんでいるならいい。
もう一度、夫の番号を呼び出す。が、発信する前に、ガチャッと玄関ドアが開く音がした。
ソファから玄関に走る。
「お帰り!」
目に飛び込んできたのは、唇をひん曲げて私を睨みつける夫と、私を見るなり瞳に涙を滲ませる息子。
「うわぁぁぁぁぁんっ!」
「幸大!? どうしたの?」
すぐに気が付いた。
家を出て行った時と、幸大のズボンが違う。
形はハーフパンツだが、大きいようでふくらはぎまでの長さ。が、十月に入った今時期は、素足が見えては寒い。しかも、靴下を履いていない。
「ズボン、どうしたの?」
靴も脱がずに泣き出した幸大を抱きしめ、弘毅さんに聞いた。
「漏らした」
「え!?」
「映画見てて漏らしたんだよ! ったく、恥ずかしい奴」
信じられない。
幸大のおむつが取れたのはもう三年も前。
「映画の前にトイレに行かなかったの?」
「家を出る時に行ったろ。それに、着いたらすぐに入場が始まったんだよ」
入場から上映開始まで十五分以上あるはずだ。たとえ始まってしまっても、予告だけで五分以上あるだろう。
「そういう問題じゃないでしょ!? 念のために――」
「――だったらそう言えよ!」
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