1.疑い

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*****  映画館まで四十分。  映画は一時間半。  早くて三時間。遅くても四時間あれば帰って来るはず。  が、もう五時間になる。  一時間前に弘毅さんのスマホを鳴らしたが、出なかった。三十分前も。  何かあったのではと不安になる。  複合施設だから、店を見たり遊んでいるならいい。  幸大が楽しんでいるならいい。  もう一度、夫の番号を呼び出す。が、発信する前に、ガチャッと玄関ドアが開く音がした。  ソファから玄関に走る。 「お帰り!」  目に飛び込んできたのは、唇をひん曲げて私を睨みつける夫と、私を見るなり瞳に涙を滲ませる息子。 「うわぁぁぁぁぁんっ!」 「幸大!? どうしたの?」  すぐに気が付いた。  家を出て行った時と、幸大のズボンが違う。  形はハーフパンツだが、大きいようでふくらはぎまでの長さ。が、十月に入った今時期は、素足が見えては寒い。しかも、靴下を履いていない。 「ズボン、どうしたの?」  靴も脱がずに泣き出した幸大を抱きしめ、弘毅さんに聞いた。 「漏らした」 「え!?」 「映画見てて漏らしたんだよ! ったく、恥ずかしい奴」  信じられない。  幸大のおむつが取れたのはもう三年も前。 「映画の前にトイレに行かなかったの?」 「家を出る時に行ったろ。それに、着いたらすぐに入場が始まったんだよ」  入場から上映開始まで十五分以上あるはずだ。たとえ始まってしまっても、予告だけで五分以上あるだろう。 「そういう問題じゃないでしょ!? 念のために――」 「――だったらそう言えよ!」
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