1.疑い

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 確かに、言わなかった。  だから、私のせい? 「くそっ! 幸大、いつまでめそめそしてんだよ!」  大泣きしている幸大に、パパの声は聞こえない。  弘毅さんはさっさとリビングに入っていく。  私は幸大の靴を脱がせ、お風呂に連れて行った。  ワンサイズ大きいズボンは、お尻で履いている状態で、シャツもめくれている。寒かったろう。  しかも、パンツを穿いていなかった。  弘毅さんがそこまで気が回るとは思えない。  私は幸大をバスタブに座らせ、お湯を入れながらシャワーをかけた。  身体が温まるにつれて泣き止んだが、今度は泣き疲れて眠ってしまいそうだ。  急いで体を洗い、パジャマを着せると、自分から布団に入った。 「映画は面白かった?」  少しでも楽しい気持ちで眠ってほしいと、私は聞いた。 「よくわかんない......」 「映画に夢中になっちゃって、トイレ間に合わなかった?」  幸大が首を振る。  私は息子の頭を撫でた。 「パパには言いにくかった?」 「パパ、いなかったから......」 「え?」 「映画見たの、俺だけだもん」  意味がわからない。  いや、幸大の言葉の意味はわかるのだが、その状況がわからない。 「一人じゃ......映画館に入れないでしょう?」 「椅子に座るまでは一緒だったけど、パパ行っちゃって......」 「どこに!?」  思わず責めるようなトーンになってしまい、誤魔化すように息子の頭を撫でる。 「パパは映画館の外で待ってたの?」 「いなかった」 「え?」
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