1.疑い

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「映画が終わったら出てきて、ポップコーン売ってる近くで待ってなさいって言われたけど、いなくて......」  幼稚園児の子供をそんな場所で一人にするなんて。 「おしっこ行きたかったけど、ポップコーン持ってたし、行けなくて......」  また、幸大の目に涙が浮かぶ。  私は息子のおでこにキスをした。 「ポップコーンは美味しかった?」 「うん。だから、少しだけ残してママに持ってこようと思ったのに......パパが捨てちゃった」  私のために残しておいたポップコーンを捨てられた時の幸大の気持ちを思うと、胸が痛む。 「......そっか。それじゃ、映画が面白かったかなんて忘れちゃうよね。でも、ちゃんとパパを待ってたんでしょう? 偉かったね。パパを探しに行ったら迷子になっちゃうもんね」  その状況を想像するとゾッとする。  今の時代、どこにどんな人間がいるかなんてわからない。  ひとりでウロウロしている子供に声をかけて連れ去ってしまう人や、いたずらしようとする人がいるかもしれない。  そうはならなくて、本当に良かった。 「パパ、お友達と映画見てて遅くなったんだって」 「え? お友達?」 「うん。手、繋いで出てきたもん」  手を......繋いで――?  聞くのが怖い。  でも、聞かなかったことにはできない。 「その人と......お話した?」 「ううん。出てきてすぐにいなくなっちゃったから」 「そ......っか」  聞いちゃだめだ。  子供に聞くようなことじゃない。  でも――っ!
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