1.疑い

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「お友達、女の人だった?」 「うん」  わかっていたのに。  夫が男性と手を繋いでいるはずがない。  わかっていたのに、聞けば、やっぱりショックだ。  夫が、息子を放って女と映画を見ていた。  息子が、父親に放っておかれたせいで泣いている。  最初からそのつもりで、幸大をダシにした?  許せない、と思った。  よりにもよって、小さな息子を利用した。  仕事だと嘘をつかれた方が、よほど良かった。 「今度はママと映画に行こうね」  頬が引き攣る。  が、幸大には何とも思われなかった。 「うん」  幸大が目を細め、頷き、目を閉じた。 「おやすみ。ハンバーグは明日食べようね」 「......」  よほど疲れたのだろう。怖かったのだろう。  幸大はそのまま眠った。  私はふぅっとひと息吐いて、リビングにいく。  弘毅さんはソファに寝ころんでいた。  テーブルにはビールの空き缶が既に二本。  私を横目でちらりとみて、視線をテレビに戻す。 「メシ」 「......幸大は泣き疲れて眠ったわ」 「ポップコーン食ったから大丈夫だろ」  何が? と聞きたいのを飲み込んだ。 「一緒に見たんじゃないの?」 「俺がアニメ見たって面白くも――」 「――だからって! 幼稚園児なんだよ? 普通に――」 「――部下の娘は幸大より一つ年下だけど一人で見てるって言うから、幸大も大丈夫だと思ったんだよ!」 「その子は一人で見てるんじゃなくて、一人で見せられてるんでしょ!? それが当たり前だなんて、どうして思うの! トイレに行きたくなったら? ポップコーンをこぼしたら? 大きな音に驚いて泣いちゃったら? 六歳の子供になにが――」 「――俺に説教すんのか!」
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