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ソファに寝ころんだまま、弘毅さんがテーブルを蹴った。
缶が倒れて転がる。
幸い、今日は中身がほとんどなかった。
いつもの私なら口を噤んだろう。
私が我慢することでやり過ごせるなら、それでいいと。
けれど、今日は引き下がれない。
また、こんなことがあってはならない。
次も、幸大のおもらし程度で済むとは限らない。
怖い。
本当は、俯いて、弘毅さんが寝室にでもどこにでも行ってしまうのを待ちたい。
でも、今日の幸大の寂しさや恐怖を思うと、引き下がるわけにはいかない。
母親でしょ!
自分を奮い立たせる。
「もっと幸大のことを考えてよ」
「ズボン買って穿き替えたろ」
「汚れたズボンとパンツは?」
リュックには入っていなかった。
「捨てた」
「どうして」
「臭せーし。つーか、新しいの買ったんだから――」
「――大きいし、ハーフパンツだし、靴下はないし! 幸大が――」
「――っるせーな! そもそもトイレもひとりで行けないとか、お前の躾がなってないからだろ!!」
「ちゃんと行けます! でも、ポップコーン持ってるし、パパを待ってなきゃいけないのに、六歳児がどうしたらいいかの判断なんてできるはずないでしょ!? そもそも、どうして映画が終わる時に合わせていてあげないの? 幸大がパパを探しに行ったらどうするつもりだったの? 迷子になったら――」
「――だから待ってろって言った! 実際、ちゃんと待ってたろ」
「おもらしして泣きながらね! 幸大がどれだけ心細かったと――」
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