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「――過保護すぎるんだよ! 来年は小学生だってのに、食べ残しのポップコーンなんか大事に抱えて漏らすとか、マジ、あり得ねぇだろ! ちゃんと教えとけ!」
幸大が、私のために残しておいたと言った時の、悲しそうな表情を思い出す。
弘毅さんはきっと、おもらししたことに怒って、真っ先にポップコーンを取り上げたのだろう。そして、目の前でゴミ箱に捨てた。
おもらしだけでもショックだったろうに、わざと残しておいたポップコーンを捨てられて、更に悲しかったはず。
「そもそも、あなたは何をしていたの?」
「は?」
「幸大を放って、どこで何をしていたのよ」
「映画だよ! 俺は俺で映画を見てたんだ」
「だとしても、幸大の映画が終わるまでに出てきて待ってるのが普通でしょ!?」
「はぁ!? 折角金払って見てんのに、途中で出てくるとかナイだろ!」
大人向けの映画なら、優に二時間から二時間半はあるだろう。
幸大は、三十分以上も一人でパパを待っていたのか。
そして、出てきたパパは女と手を繋いでいた。
映画を見ながら、ナニをしていたのかしらね――。
幸大が笑ってくれたらいい、と思った。
弘毅さんが息子に優しくしてくれたらいい、と願っていた。
その願いは、木っ端微塵に打ち砕かれた。
それが、すべてだ。
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